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 ここからは写真なし、文字みっちりでお届けする、映画B学校ビデオ屋珍道中。女子はあんまり立ち入ることのない、ロマンポルノコーナーからスタートです。(小川志津子)


シンスケ「あ、尺八弁天だ」


 ……しゃくはちべんてん?  手にしたDVDをみると確かに『おんな地獄唄尺八弁天』のタイトルが。


シンスケ「改めて口にするとすごいタイトルですね。「おんなじごくうたしゃくはちべんてん」(笑)素晴らしいタイトルだ」


 何かの呪文のようです。


シンスケ「これって、全編モノクロでしたっけ。エッチなシーンだけカラーになってたような記憶が」

知史「いや、パートカラーだった気がしますね。ピンク映画ってそういうの多いんですけど。渡辺護監督でいうと、あれもいいですよね……あれ、タイトルが出てこない。同じシリーズでDVD化されてた……ひなびた温泉街の、ブルーフィルム撮影隊の話」

シンスケ「ああー、はいはい!……出てこないな俺も」


 『秘湯の街 夜のひとで』と思われます。2015年3月13日現在、Amazonにて在庫は2本。


 

シンスケ「最近、名前が出てこないっすよ」

知史「出ないっすよ、名前」

シンスケ「何か病気なんじゃないかな、っていうくらい、出ないなあ」


 ……27歳がちゃんちゃらおかしいです。


知史「お。『Don't let it bring you down』だ。佐野和宏監督は「ピンク四天王」と言われたひとりで、公開題は『変態テレフォンONANIE』っていうんですけど。航空自衛隊の操縦士が、機密文書を強奪して逃げるんです。それを自衛隊が追うんですけど、結構センチメンタルな描写で終わる、甘ーい映画です」
シンスケ「公開時のタイトル、完璧ですね」 


 ……それのどこがどう「ピンク」につながるのかまったくわからないけれども。そもそも、そういう映画に、どうやって出会うんだろう。初めて借りる時って、やっぱりどぎまぎするのかしら。


シンスケ「いや、俺はしなかったかなあ。店員に対して『これが分からないお前がビデオ屋としておかしい!』ぐらいの感じだった(笑)」

知史「それは強気ですね。俺は、これ1本だけ借りるのって何かアレかなって思って。ピンク映画と、ブレッソンを1本ずつ持って(笑)。最近はもうどうでもよくなっちゃいましたけど」

シンスケ「ああ、でも最初に成人映画館に行った時は緊張した。上野の」

知史「ああ。上野オークラ劇場」

※(局員鈴木T:注 ロマンポルノコーナーに来たのに結局なぜかピンク映画にしか触れませんでした。なぜ……)
※(局員シンスケ:注 ロマンポルノを映画B学校の場で触れることを、無意識に避けたのかも……) 


 そして何のグラデーションかわからないのですが、その隣は演劇のDVDたちが粛々と並べられているのです。


知史「イッセー尾形だ。この人はもう、何にでもなれちゃいますね。さっき別の棚で昭和天皇になってたけど(『太陽』)」

シンスケ「寺山修司もある」

知史「僕、物真似できますよ。『徹子の部屋』に出た時のVHSを持ってます」

シンスケ「寺山映画は、別のコーナーなんだね。ここは、舞台オンリー」

知史「舞台も面白いですよ。音楽がいいです。J・A・シーザー」

シンスケ「シーザー最高! ファズギターがどサイケ! カラオケで歌いたい!」


 ……そして「時代劇」のコーナー。


知史「来た、『斬る』! 『斬る』やばいっすよね、『斬る』!」

シンスケ「やばいよ! やばいって!」

知史「人が、ふたつに、割れるんですよ。三隅研次の『斬る』!」

シンスケ「三隅研次の『斬る』が圧倒的に異次元でやばい! 『斬る』って言うと、岡本喜八の方を言う人も多いんだけど…」


 局長は野田秀樹を思いましたよ真っ先に。『キル』94年初演、堤真一と羽野晶紀ね。渡辺いっけいさんが哀しくて素晴らしくてね。


シンスケ「昔の映画って、同じタイトルの作品を違う監督が撮っていることがすごく多いので。そこはぜひ、気をつけたいです。全然違うから。立川談志の「芝浜」くらい違う。それは落語の話ですが」

知史「ああ、菅原文太追悼コーナーができてますね。高倉健も」

シンスケ「すげー、文兄ぃのコーナーに『千と千尋』がある(笑)」


 任侠ものにまぎれて、ジブリがあり、古畑任三郎があり。その棚はもう、店中のすみずみからかき集めてきたであろう、菅原文太の仕事大全だったのです。


シンスケ「『県警対組織暴力』はいいですよ。文兄ぃは松方弘樹はじめ地元のやくざとかとずぶずぶの関係の、ある種の人情派みたいな刑事なんですけど、その腐敗を改善しようと送り込まれるエリート刑事・梅宮辰夫が、事件が解決した後にあっさりと、やくざと癒着している企業に転職するんです。で、社員のみんなで、ラジオ体操するんですね。非常にさわやかに」

知史「してましたね。さわやかに」

シンスケ「俺、ラピュタ阿佐ヶ谷で観たんですけど、そこで大爆笑しちゃって。周りから白い目で見られました。ちなみに、脂ぎった全盛期の松方弘樹、最高です。無理やり抱かれても、もう仕方ないかな、と思うくらい」


 裏へ回るとそこには「ゴジラ」コーナーが。


知史「やはり東宝の回し者としては(笑)、ここは外せないですよね」

シンスケ「ゴジラシリーズの最高傑作っていうと、どうなるでしょうね」

知史「僕は一応、全作観てますよ」

シンスケ「ちっちゃい時好きだったのは……『怪獣大戦争』とか普通に楽しかったのかな。いまはもはや伝わらないかもしれない「レーザーディスク」を父親の仕事仲間さんが大量に持っていて、それで観たんだっけかな」

知史「僕らの世代がリアルタイムで観ているのは90年代の、「vs○○」がついてるあたりですよね。僕は『ゴジラvsメカゴジラ』が結構、好きかな。『ゴジラvsデストロイア』も物語としては良いんですよ。第一作目で出てきたゴジラを倒した「オキシジェン・デストロイヤー」という兵器が使われたことによって、東京湾が無酸素状態になってて、酸素がなかった古代の生物が蘇って、50年を経て進化を遂げて怪獣「デストロイア」として生まれ変わるんです」


 ……なんかすごい話だ。人間の勝手で生まれちゃった巨大な何者かの物語。


知史「でもなんか、最後倒されるところとかが、わりといつの間にか、起伏なく倒されてて物足りないというか。ゴジラはここで一旦死ぬんですけど、2000年に「ミレニアム」として復活するんですね。でも僕は正直、これはちょっとつまらないと思っていて」

シンスケ「なるほどね」

知史「『ゴジラvsヘドラ』も面白いですよ。1971年だから、すっごいサイケデリックな映像が繰り広げられるんですよ」

シンスケ「異色扱いでしたよね。どサイケで」

知史「なんか……今マニアックなこと言ってるみたいに見えるかもしれないけど、『映画秘宝』とかを読めばみんなが言ってるようなことしか言ってないです僕」


 大丈夫。それが読みたい人たちはきっと『映画秘宝』を読むから。


シンスケ「監督別コーナーだ……いけませんね、これは。非常にマズい」

知史「小津安二郎とか、ありますね」

シンスケ「うん、もう、逆に無視!」

知史「レジェンドなので、無視!」

シンスケ「相米慎二……無視!」

知史「レジェンドですね。無視!」

シンスケ「ああ、これもある意味でレジェンド系だけど……『田園に死す』。寺山修司ですね。大爆笑しました(笑)。どサイケで脳が溶けるかと。大学生ぐらいの時、三上寛が出てくるところのセリフを暗記して、ひとりで遊んでた思い出があります(笑)「下北半島は〜」って(笑)」

知史「俺も大学の頃、観ましたよ。でも俺はちゃんとシリアスに観ました」

シンスケ「うん、それが正しいんだと思う(笑)ちなみにこのサントラ、持ってます。いまだにヘビロテです(笑)」

知史「あ、勝新太郎だ。『やくざ絶唱』。これがいいんですよ……!」

シンスケ「溝口健二、あえて無視。成瀬巳喜男、逆に無視」


 さっき「逆に無視」したのに、さらに「逆に無視」なのなら、それはもはや「普通」じゃないのか。


知史「清水宏もそろそろ無視していかないと」

シンスケ「うん。北野武なんて目に入ってないですから俺。一本も観たことなんてないですからね、はい」


 ジャンルも時代もおおらかに超えて、ぐんぐん歩く二人。


知史「若松孝二の『狂走情死考』、好きですね。とにかく、北へ行くんです。車窓の風景がだんだん雪に変わっていく感じが、僕は東北出身なので、何ともいえない、切ない気持ちになるんですよね。自分が見てきた風景、自分が育った風景というのを、若松孝二とか足立正生は意識的に撮っていて、その感じがすごくよく出てる作品ですね」

シンスケ「ここであえて逆に『悪人』に触れてもいいですか(笑)。最悪なことに、デートで観に行きました。デートで映画はマズいですよ。僕は、観終わってからずっと複雑な顔をしていたようで」

知史「彼女はどうだったんですか」

シンスケ「面白かったらしいんですよね」

知史「じゃあ、いいじゃないですか」

シンスケ「でも某監督が言ってるじゃないですか。映画の趣味が合わない恋人とは結局続かないって。結果、その教えを忠実に守ったんです、僕は!」

知史「別になりたくないです、その某監督に」

シンスケ「でも『悪人』はひとつだけ、イカ刺しを食ってるところで、イカの目にズームしていくと回想シーンになる、っていうのがあって。そこだけ、劇場で大爆笑しました」

知史「それは、イカが見た風景なんですかね(笑)」

シンスケ「刺身にされたイカが思い出してたんでしょうね(笑)」


 映画好きな人たちの、こういうところが私は好きです。自分たちで勝手に映画をふくらませちゃうところ。普通はね、『悪人』観てても、イカ刺しまでは覚えてないと思うんです。でも彼らは覚えてる。そしてそれをフックにして、会話がどこまでもふくらんでく。


知史「ああ、これは触れたい。『日本暗殺秘録』。中島貞夫監督が僕は好きで。さっきまで東宝の回し者だったのに、左傾化してきたみたいなので、ここでバランスとっていかないと」

シンスケ「東宝の回し者が左傾化(笑)」

知史「その反動が今、来たんですけど(笑)。でも日本の古い映画のコーナーを歩いてると、左傾化していきませんか」

シンスケ「それは、しょうがないかも……あ、『アウトレイジ ビヨンド』。思い出した、俺、北野武、観てました。完全に全作観てました。加瀬亮の芝居が、やばいんですよ。常にブチ切れてる。完全にやり過ぎ。だが、それが逆にいい。『アウトレイジ』の時はもっとクールだったのに」

知史「あ、岩井俊二だ……僕らはここで、岩井俊二に触れるしかないんじゃないですか、逆に!」

シンスケ「逆にか!」

知史「逆にです! 岩井俊二一択ですよ!」

シンスケ「逆にね。逆に、岩井俊二一択!」

知史「『リリィ・シュシュのすべて』も『スワロウテイル』も普通に観たけど……なるほどね、っていう感じだったな。でも、これは面白かった。『四月物語』。全部主観で描かれるんですよ。たしか」

シンスケ「このあたりの作品群は、日本の時代の空気をすくい取ってますよね……」

知史「そう、時代感というものを、一番強烈につかんでいた人ですからね。今僕らが生きてる時間を、同時代的につかんでるなあって、あの頃は思った。でも今って、まさに今、この時代感をつかんで出してる映画監督って、わりといない気がするんですよ」


 作家には、たぶん適齢期がある。自分の資質と時代とが、がっちりとシンクロするひとときが。「今この時をつかんでいる」作家が、「明日もその時をつかみ続けていく」ことができるかどうかは、はっきり言って、わからないのだ。


知史「僕は、宮本武蔵のことをよく思うんです。自分はたまたま剣を使わない時代に生まれてきたから、すごく普通に生きているけど、もし剣がモノを言う時代に生まれていたら、めっちゃくちゃ強いんじゃないかって」

 そんなことを思ってるうちにね、30代とかあっという間に過ぎちゃうから気をつけてください。次回、一行は洋画フロアへ踏み入ります!