アクターズ・コース修了公演『石のような水』稽古場レポート(鈴木知史with小田原直也)


 先日、アクターズ・コース第4期修了公演『石のような水』の稽古場見学に行ってきました。そのレポートを書こうと思います。(鈴木知史)

 同行してくれたのは、アクターズ・コース第1期修了生の小田原直也さん。演劇のことをあまり知らない私が「なんだろう?」と思ったことを解説をしてもらうために、小田原さんを誘ったのです。


 稽古場である映画美学校の地下スタジオに到着すると、さっそくホワイトボードに書かれた文字が気になりました。


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「小屋入りまであと10稽古」とあります。それを見て、小田原さんが一言。


「もうあと10回しか無いのかぁ」


 私は俳優ではないので、それが短いのか長いのかわからないのですが、小田原さんはとても短いと感じたようです。


 そんなことを思っていると、アクターズ生の一人が謎のビニールの幕を持ってきて、演出の松井周さんに「こんなのはどうでしょう?」などと言い、見せ始めました。


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 どうやら舞台美術の提案のようです。そう、舞台美術もアクターズ生が主体となって作り上げていっているのです。


 そうこうしているうちに、いよいよ稽古が始まります。


「じゃ、はいどうぞ」


 映画の現場のように「テスト!」「テスト!」と復唱される大きな声が響くわけでもなく、「よーい、はい」と監督の声が響くわけでもなく、松井さんの「じゃ、どうぞ」という穏やかな声とともに、稽古はいつの間にか始まります。

 小田原さんにそのことを尋ねたら「まぁそんなもんじゃないですか」とのことだったのですが、映画の現場に慣れている自分としては、新鮮な驚きでした。


 稽古風景をじっとみていると、徐々に物語が立ち上がってきて、だんだんと作品の世界に引き込まれていきました。

 小道具の使用法や音楽の使い方、役者の動き、セリフの内容が回想に移るタイミング、出ハケなどなども気になる……。

 しかし、「まずい! これではただの観劇になってしまう!」と思い、途中から松井さんを見る方に自分の意識を移しました。


 松井さんは、稽古中、つねに観客席側にあたる場所に置かれた椅子に座り、そこから立ち上がることはありません。


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 手前に据えられた机に台本を置き、右手に持ったペンを手の上で転がしながら、台本と役者を交互に見つつ、ときおりノートに何やらメモを取っています。

 松井さんの目の動きを見ようと、途中から横に回り込んだのですが(「もし自分が逆の立場だったらやだなぁ」と思いつつ……)、メガネのフレームが邪魔をして、観察できなかったのが残念。よく映画監督がサングラスしてるのって、やっぱりこういう私のようなやつが現場にいるからなのでしょうか。助監督とか。などとどうでもいいことも思いました……。


「はいはい」


 松井さんの穏やかな声で、芝居は中断され、一通り見てみて気づいた点を松井さんが俳優たちに伝えていきます。


 私と小田原さんは途中で稽古を抜けて、中華屋に移動。そこで、松井さんの語った言葉について、その意味を小田原さんに聞いてみました。


 松井さんはよく「ベクトル」という言葉を使います。「ベクトルが今話している相手から、だんだん移っていく感じで」などと俳優に話していました。それは、どういう意味かと小田原さんに聞いたところ、こんな答えでした。


小田原「松井さんの考え方の一つみたいなもので、欲求のベクトルみたいな。例えば今、こうやって知史さんと話しながらもビールを飲むみたいな。知史さんと話したいという太い欲求のベクトルもあるんだけど、同時にビールに対しても細いベクトルがある。そのベクトルの大きさだったりっていうのを意識して操作するっていうか。この瞬間どこに向けるかとか」


 また、その日私が見た限りでは、松井さんは演技指導で、自ら動いてみせることは一度もしませんでした。松井さんはそういう演技指導はしない人なのでしょうか。


小田原「ほぼしない。ただ一回だけやったことある気がする。なんのときだったかな・・・・。俺らのときの修了制作の時に、一瞬だけやったことある。でもそれは最終手段だと思う。まぁそうやってみせたって、『そうやんのかぁ』みたいになっちゃうから(笑)」


 先輩である小田原さんから見て、アクターズ4期生はどうだったかも聞いてみました。


小田原「まだ台詞とかが自分自身のものになっていないっていうか……。自分自身の言葉っていうのもなんか変だけど、今日ちょっと見てて、台詞がこう出て、それに体が引きずられてるように感じた。台詞はヒョーって出るんだけど、それに体がズズズって引きずられているっていうか」


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それを説明する小田原さん。


小田原「先に台詞が出ちゃってる感じというか。自分が相手になにか台詞を言っているときに、相手をどうにかしたくて言ってるわけじゃないですか。相手を説得したくてとか。でも、先に台詞が先に出て、それに引きずられているかなっていうふうに見えたっていうか。台詞が出てから自分の意思がついてきてるというか。本来は自分の意思があって台詞が出るから。まぁ全部が全部そんな強い意思があって話してるわけではないけど」


 そんな話をしているうちに夜はふけて、酒量も増え、話はまったく関係ないベクトルに向かって行きました。

 その頃もまだ地下スタジオでは、稽古が続いていたのでしょう。

 アクターズ4期生のみなさん、がんばってください!!