北野映画に「カワイイ」が生まれた瞬間。
『龍三と七人の子分たち』をようやく本気で語……る、はず。そろそろ。

 
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三宅 僕は『アウトレイジ ビヨンド』がめちゃめちゃすごいと思っているんですけど、それは簡単にいうと「カメラの後ろに北野武がいないんじゃないか」って思わせられるからなんですね。透明というか、「普通」というか。かつてならキメキメで撮られていたようなシーンでも、『アウトレイジ ビヨンド』ではあらゆるものすべてがものすごく「普通」に撮られていて、ほんとにすごいと興奮したんです。でも今回は、やっぱり「北野武」がずっといたという印象があります。ひとつひとつのカットは『アウトレイジ ビヨンド』の方向性のままだと思うんですが、今回はギャグが絡んでいるから、透明ではない。ギャグのためのカットというと言い過ぎなんですが、透明なカットではない。もちろん、ものすごく「普通」に撮られていて、それが映画になるだけで面白いんですけど。でも、ギャグのせいで「普通」に見えないという。ギャグには爆笑したので、複雑な気持ちなんですけど。

 

冨永 僕は、あんまりそうは思わなかったですよ。「北野武」を認識させられるショットはあまりなくて、むしろ「普通のショットばっかり撮ってるなあ」って思った。普通に面白く観たんですよね。だから、感想を問われても、何て言えばいいのかわからんのですけど。

 

千浦 何でも思ったことを言えばいいじゃないか。

 

冨永 リアルな方向にできなくもないネタなんだけど、できないんだろうなと思ったりはしました。今の世の中で一番怖い集団に、かつてのヤクザたちが一矢報いる話。これをギャグとしてやらなきゃいけないのって、何なんだろうなと思ったり。

 

千浦 いくらでも残酷に描けそうなことを、全部かわしてる感じはあったね。特に中尾彬の孫娘の話とか、イヤーな展開にしようと思えばできるじゃない。でも「……やっちゃうか?」だけにするあの寸止め感の味わいに、今までの北野武映画にあったバイオレンスへの目配りが、まるでフェイントみたいに効いてるなと思った。そして実際、まったくそっちへは行かないんだよね。結果的に「カワイイ映画」になってるなあと。

 

三宅 俺はそれが不満だったです。隣にイーストウッドとシルベスター・スタローンを並べてみるといいと思うんですが、『スペース・カウボーイ』(00年)の方が老人としてのファンキー度は高いと思ってしまった。まあイーストウッドと北野武は年齢差があるから並べないにしても、スタローンとたけしは同学年なんですよ。となると『エクスペンダブルズ』シリーズの方が全然強い!と思って。

 

市沢 思うに、この映画はつまり、「カワイイ」から当たったんじゃないですか。

 

スズキ え、当たってるんですか?

 

千浦 当たってるでしょう。劇場、結構満席だったし、興行成績もそこそこいいみたいな情報。

 

市沢 『龍三』の公式サイトに大久保佳代子さんの感想が載っていて。そのハチャメチャさも含めて、愛らしいものとして語っていた。ほかにもいろんな「芸能人」がコメントを書いていて、宣伝側がこの映画を「カワイイもの」として見せようとしているのがわかったし、実際の中身も、その思惑を裏切ってはいなかった。

 

千浦 タイトルの字体からして、そうだよね。

 

市沢 この映画はそれも込みなので、『エクスペンダブルズ』にはならなかったんじゃないのかなと(笑)。

 

三宅 いや、『エクスペンダブルズ』もカワイイですよ。『スペース・カウボーイズ』もすごいカワイイ!

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千浦 いや、あれはね、普段から大盛りステーキを食べなれてる人でないと「カワイイ」とは認知できないと思うよ。でも、言ってることはわかる。

 

市沢 『龍三』は、装いとしてのカワイさっていうかさ。

 

三宅 でも映っている人は本気ですよね。とはいえ、どこまで本気で、どのくらい装いなのか、とか考えだすと……。

 

千浦 いやいや、でもそれが「ギャグ」ってもんですよ。やってる側はやたら本気で、それを見てみんな笑うという。ただ、映画館で湧き起こってた笑いには、「ユルさ」を「許してる」感じがあったね。「ユルさ許し」みたいな何かがあった。たけしじゃない人があれをやったら、みんなもっと冷たく観てるんじゃないかなと思ったりして。

 

市沢 お客さんたちはあの映画に、北野武という名前と顔が刻印されているから笑ってるんですよね。「北野武がやっている、ちょっと面白いこと」っていう安心感。

 

冨永 ああ……それ、嫌かも(笑)。

 

市沢 うん。そこに違和感を感じるのも、すごくわかる。「それでいいのかよ……?」っていうことも含めての、実感。

 

三宅 野暮を承知で告白すると、その装いと本気の間のズレで、いろいろ気になったりもしたんですよね……。もちろん面白かったし声だして笑ったんですけど、「くだらねえー!」みたいなノリで面白かったから。でも、なんだろうなあ。

 

市沢 僕は基本的に、昼間からだらだらしている大人を見るのが、何だかんだ言って好きなんですよ。社会人になったら普通、友だちって縁遠くなるじゃないですか。でも龍三にはなぜかそれがいる。そのへんが、うちの父親にそっくりだったんです。

 

千浦 出た、市沢一族の伝説。夕方になると知らないおじさんが集まってきて、一緒に『野生の王国』観てたんでしょ。

 

スズキ 何ですかそれ(笑)。

 

千浦 久しぶりに帰省したら、全然知らないおじいさんが家で働いてたんでしょ。

 

市沢 親父は中古車のディーラーだったんだけど、ある時実家に帰ったら、売り物の中古車を磨いてるおじいさんがいて。そしたらうちの親父がおもむろに、どんぶりに山盛りごはんと卵を2つ落として「おい!」っておじいさんを呼ぶわけ。「今日は、卵2つだ!」って手渡して、おじいさんがそれを食い始めたので、さすがに気になって「あれ、誰?」って聞いたら「うん、手伝い」って。

 

一同 (笑)

 

市沢 どうも東京でホームレスしてた人を親父が拾ってきたらしいんだけど、兄貴も母親も、そいつの存在をすでに認めてるんですよ。新聞の求人欄を見ながら「あ、これなんかあいつに良くね?」「ダメだ、あいつ面接とかできねーから!」って(笑)。そういう親父のコネクション力を見ながら育ったので、龍三たちのダラダラした感じを見ると「あ、なんかいいな」って思っちゃうんです。『岸和田少年愚連隊』(96年)とかもそうなんだけど。

 

千浦 余談ですが、その話を聞いた大工原(正樹)さんが「なるほど、市沢くんのことがよくわかった!」って。「常識を押さえているけど、外れた者への対応力もあるのは、そういうことだったんだね」って。

 

一同 (爆笑)

 

千浦 そういう、昭和的な人の絆。『龍三』はそれが描かれていた映画でしたね!

 

スズキ まとめましたね、いきなり(笑)。
(つづく)