ここらで、今回の企画趣旨へと踏み入ろう。あの映画で、女たちが繰り広げていた「熾烈なゆずり合い」について。演劇の現場で、対等にものを創り合う劇団に籍を置く二人は、あの光景をどう見たのだろうか。

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兵藤 なんというか……私も無自覚のうちにやってるのかもな、って思っちゃいました。

鈴木 (笑)

兵藤 やってないとは思いたいけど、そうは言い切れない。わからないな、って思いましたね。誰しも、誰かのことがうらやましいときってあるでしょう。それを自分の中でどう消化してどう表出させてるか、自分ではわからない。何かの拍子に言っちゃってるんじゃないかなと思って。私はどちらかというと毒っ気担当なので(笑)。ただ、それが、ユーモラスかどうかがすごく大事だと思ったな。愛を込めるか込めないか。

鈴木 すごくそう思う。

——そして、あそこで繰り広げられていたのは「私のほうが綺麗」ではなく、「あなたのほうが綺麗」という勝負だったでしょう。自分は憐れまれるべき存在であり、優劣で言えば「劣」なのだ、という主張。すごくそこに「女」を感じたんです。

兵藤 あれって実は「綺麗さ」というよりはその場の中心でありたい、っていう欲求で、それがねじ曲がった形で出てきてるのかな。だから、なんかさあ……ぶっちゃけられたらいいよね!って。「いいなあー!」「うらやましー!」って、言えちゃったら楽なのに!

鈴木 (笑)

兵藤 あの人たちは、それが言えなくてキツいんだろうな。どうして言えないんだろう。

鈴木 富裕層のプライド?

兵藤 プライドかあ。

——身近にそういう景色を見たことはありますか。

兵藤 そうですね……自分も無自覚にやってしまっているのかもしれない、という件については置いといて(笑)、演劇周辺では、あんまり遭遇しない気がしますね。

鈴木 富裕層じゃないから(笑)。

兵藤 貧乏争いとかはありますね。いかに貧乏か合戦。

鈴木 演劇周辺の、特に女性は十中八九、持ってるものを褒められると「いや、安かったの安かったの!」って言うっていう説を聞いたことがあります。褒められると、否定する習性がある。

兵藤 ある!なんでだろう!

鈴木 「そうでしょ、いいのよー」って言っちゃうと、自慢になるから鼻につくでしょう。

兵藤 そうか。だから演劇周辺では、マウンティングとか起きづらいのかも。基本的に私たちって、作り手から選ばれる立場じゃないですか。オーディションとかで、優劣をはっきりと思い知らされる仕事。もちろん選ばれたら嬉しいし、勝負で言ったら「勝ち」なんだけど、でもそれを上回るくらい、回数的には負けてきてるから。そこで妙に劣等感をくすぶらせてたり、「私の方が上なのに!」とか思ってちゃ、やっていけないんですよ。

——「こんなにこっぴどく落とされた!」自慢になったりは、しませんか。

兵藤 自慢っていうか、なぐさめ合ったり、痛みを分け合ったりする感じはあるかも。それでお互いに「私たち、すごいよね!」って称え合うという(笑)。

鈴木 あと、私たちは劇団員だから、ある作品にキャスティングされなくても、次回以降にまた一緒に芝居を作る可能性があるわけですよ。内心「くっそー!」って思ってても、励まし合いながらやっていった方が、自分も周りも幸せっていうのはあるかもしれませんね。

兵藤 だから、(中川)ゆかりさんとかは、また違う実感を持っているのかもね。

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——あと、女には、「私が一番可愛そう」という名の悦楽がある気がするんです。「私が一番可愛そうだと思いたい!」という欲求が。

兵藤 たしかにそうかもね。「悲しみの中にいたい」みたいな気持ち。ある飲み会で、「私たちは同じぐらいブスだ」という認識の中にある女子二人のうち、片方がみんなに注目されだすと、もう片方は自虐に走るっていうパターンがありましたね。「私の方がブスなんだから!」とアピールのごとく、ものすごく醜く鶏を食らうという(笑)。

鈴木 自分のキャラを守るっていうのは、たしかにありますよね。自分で上乗せしちゃう感。

兵藤 あとはやっぱり、富裕層だからじゃない?(笑) 時間とお金に恵まれて、平坦な人生を生きてたら、多少の悲しみがあった方が生きてる実感あるでしょう。人はやっぱり、変化したいじゃない。「つらいって、いいなあ!」っていう感じがあるかもね。

鈴木 私は『サド侯爵夫人』をすごく思い出したんです。「あたくし本当につらいの、もうダメ、苦しいの!」「何言ってるの、あたくしの方がよっぽどつらくて苦しいわよ、だって考えてもごらんなさいよ!」ってずーーーっと言い合ってる女たち。

兵藤 そしてあの人たちも金持ちだ(笑)!『トロワグロ』の戯曲本を見たら、ト書きに細かく指定されてるんですよ。はる子さんは「ミウミウのノースリーブのワンピース」を着てらっしゃるって。

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兵藤 あと、和美さんは、「シャネルの胸のあいたドレス」って。

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鈴木 だから「ちょっと今日はこういう趣向で、悲劇のヒロインを楽しみませんこと?」みたいなプレイなんじゃないですか。翌朝にはもう二人とも、けろっとしていて。

兵藤 そうね。私たちの、想像もつかないようなスパに行ったり。

鈴木 だからこの映画を富裕層の人たちが観たら、どう思うんだろうと思って。「やだ、これ、あたし……!」ってなるのかな。

兵藤 すごいね。金持ち、すごいねえ!

鈴木 完全にイメージでしゃべってますけど(笑)。

兵藤 そうだ。あのね、私の身の回りで起きることについて、ひとつ聞きたいことがあるんですけど。

鈴木 ほうほう。

兵藤 電車の中で、隣に座ってる人が、スマホ見ながらピッポピッポしてるのね。

鈴木 まあ、今時のスマホは「ピッポ」とは言わないですけれども(笑)。

兵藤 そしたら、その人の肘が、私の肘の上に乗っかるの。

鈴木 どういう状態?

兵藤 こういう状態。

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兵藤 こういう状態になると、私はそうっと自分の肘を、その人の肘の上に置き直すんですけど、これはマウンティングですか?

鈴木 (爆笑)

——相手の性別はあまり関係ない?

兵藤 いや、だいたい男性ですね。幅ばっかり取ってゲームしてる。いろいろあるんでしょうね、肘の具合が。

鈴木 わー。その戦い、見たいわー(笑)。

——肘を上に乗っけられた瞬間の、気持ちの動きってどんなですか。

兵藤 乗っけてきた相手が、私の存在をまったく無視しているのを感知した瞬間に、何かが動き出しますよね。「隣に人間がいるんだよ……!」っていう主張が。

鈴木 最終的に、どうなったら勝ち?

兵藤 物理的に、上に乗せた方が勝ち。

鈴木 そこから攻防戦になったりは?

兵藤 それは、さすがにないかなあ。……あと、もう一つ思い出した。駅のホームでせっかく整列してるのに、電車が来てドアが開いたとたん、後ろから追い越して乗り込んでいく人がいるのは、マウンティングですかね。私はすごく、マウンティングされた気持ちになるんですけれども。

鈴木 あー。ありますね。

兵藤 自分が座ってても、そういう光景を見たりするじゃない。追い越された人の顔が、ものすごいことになっていて。

鈴木 ひー。怖いーー。

兵藤 電車の中は、戦いですよ。入り口に立ったまま、頑として動かない人とかね。でも、他の人は気づかないんですよね。みんなスマホを見てるから。

鈴木 私はほとんど電車に乗らないからなあ。それに争いごとの気配があると、すぐ逃げちゃうたちだから。

兵藤 うん。逃げるが勝ちだよね。

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兵藤 そうやって戦いの渦中にある時、「恥ずかしさ」って発動しないのかなあって思う。和美さんたちの攻防も、一般人から見たらちょっと恥ずかしいじゃない。でも平気なのかな、お金持ちだし。

——恥ずかしさの種類が違うのかなと思いました。恥ずかしいと思うことの種類が違う。二の腕をぷるぷるさせるところとか、必死じゃないですか。

兵藤 しかも、誰も止めない(笑)。

鈴木 めんどくさいんでしょうね。この人たちはこういう人たちなのだから、やりたいだけやらせておけ、みたいな見解なのかもしれない。一応、止めはするけど、どうせ止まらないだろうし。だったら行くところまで行ったらいいよ、という。

——そして和美さんは、ぷるぷるの二の腕をさらしてまでも、守りたい何かがある気がするんです。

兵藤 それはでも何だか、気持ちがわからなくもないですよ。集団の中で、誰かが中心になった時に生まれる、「自分は蚊帳の外にいるんじゃないか」という不安。誰しも、抱いたことがあるじゃないですか。そこまではわかる。でも、ああいう感じにはしないですよね(笑)。だから、ある意味、和美さんはすごく素直な人なのかもしれない。強さなのかもしれないですね。普通は、踏みとどまるじゃないですか。あそこまでじたばたしてみせることを。「恥ずかしい」っていう気持ちが働くから。でも私、80歳くらいの女性と知り合いなんですけど、「あなたには負けないから!」みたいなことを普通に言われますよ。「あなたよりも私の方が、ここはすごい!」とか「あの人はばあさんに見えるけど、私は80歳に見えないって言われる!」とか。それを、生命力と呼ぶのかもしれないですけどね。(続く)