始まりは、もう2ヶ月前になる。最新映画シーンの動向から少し離れちゃった編集局長が、「今、何が熱いですか」とB学校界隈の面々に尋ねたのだ。

 1人が「このシリーズについて真面目に語られてるのを見たことがない」と言い(スズキシンスケ)、別の1人が「それをやるならむっちゃ出たい」「司会でもなんでもやるから」と即レスをくれて(千浦僚)、じゃあ実家が外車のディーラーだった市沢真吾のスケジュールに合わせようと一致団結、すると「6月の午前中」を指定されたもんだから、GW映画を6月に語るという、映画情報サイトだったらバチコーン!としばかれそうな事態になった。

 始めは「あんまり覚えてなくて……」とぼやかしつつも、追って「面子の端に入れてほしい」と再レスをくれた小出豊、最新作を観るために第一作から全部一気に観たという中瀬慧を加えて、男たちの舌戦が始まる。(取材・文:小川志津子)

※文中、「2」とか「3」とか、あるいは副題で作品名を表記します。わからない人は「ワイルド・スピードシリーズ」で検索!


【登壇メンバー】

小出豊:免許あり。つい最近まで "セダン" が自動車のメーカー名だと思っていました。

千浦僚:自動車の知識は中学生時代にほぼ男子全員が回し読みしていた「ホリデーオート」と「よろしくメカドック」仕込みで、いまだ「頭文字D」も『ワイスピ』も充分楽しめる41歳。免許なし。都内の移動はもっぱら自転車。

市沢真吾:生来カタログ大好き人間で、小学校低学年の頃は、車のカタログや「中古車情報」(ページいっぱいに値段と仕様の書いた中古車の情報が載っているだけの雑誌)を読みふけっていた。中学校になる頃にはどんどん興味を失っていったのだが、遺伝なのか、今は自分の息子が車好きに!

中瀬慧:映画美学校フィクションコース13期生。映画の撮影部。免許取得以来ほとんど自動車の運転をしていない、いわゆるペーパーゴールド。この座談会の後に代々木公園で松江哲明監督とK−POPアイドルのライブ撮影を行った。

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千浦 じゃあそれぞれ、今までどれくらい観てたか、みたいなあたりから始めましょうか。

市沢 私は、「2」と「3」(『TOKYO DRIFT』)を観ました。

千浦 「2」が2003年。「3」が2006年。

市沢 そうです。その後仕事が忙しくなって、映画自体をそんなに観れてないんですが。だからだいぶ間が空いて、今回『ICE BREAK』を観ました。何というか……『ワイルド・スピード』って、もっと、小さい話だったじゃないですか。

千浦 そう! えらくデカい話になっちゃったよね。

市沢 読まなくなった連載マンガを久しぶりに見たらすげーことになってた!みたいな。『魁!! 男塾』ってこんなトーナメント制だったっけ?みたいな(笑)。

千浦 硬派学生の学校内の話かと思ってたら、世界最強を賭けて、段々増えてきた仲間と共に1チーム十六人とかで闘っているみたいな……。

市沢 すごい規模感が増しているっていう。『ICE BREAK』もそんな印象で観たんですが、でもむちゃくちゃ面白かったですね。予告編もまるで観なかったので、全っ部楽しめた。

中瀬 僕は「3」をリアルタイムで観て、その後は市沢さんと同じく間が空いて、『SKY MISSION』を観て、まさに「こんな話だったっけ?」状態になり。今回最新作が公開されるにあたって、ちゃんと見直そうと思って「1」から『SKY MISSION』まで全部観て、予習バッチリの状態で『ICE BREAK』を観ました。

——何日ぐらいかけて観たんですか。

中瀬 2日ですね。1日4本ぐらい。

千浦 いいねえ。幸せそうだ。

中瀬 幸せな2日間でしたね。1本の映画がハリウッド超大作シリーズに育つまでの過程を把握した感じです。

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小出 僕は「1」から「3」までを観てなかったんですよ。でも何かの機会に黒沢清さんに「『TOKYO DRIFT』凄いよ、観てないの!?」って冷笑されて、それで「1」「2」「3」をレンタルで観ました。そこからは劇場で全部観てます。

市沢 黒沢さんの、いつものテだ(笑)。

小出 あの時、黒沢さんに「何が凄いんですか」って聞いたら「渋谷のスクランブル交差点でカーチェイスしてるんだよ!」って言われたのを覚えています。

中瀬 この間仕事でご一緒した、黒沢さんの作品に多く就いてたベテランの助監督さんに聞いたんですけど。『回路』の無人の街は最初、スクランブル交差点でやりたかったそうなんですよ。何日か、みんなで視察に行って、「……できないよね」っていうことになって。そこで黒沢さんが「みんな、フィックスならできるって思うでしょう。でも、(カメラが)動いたらハリウッドを超えられるよ!」って言ってたらしくて。その言葉がみんなに火をつけて、「もしかしたら朝の銀座ならイケるかも!」っていうことになったって。

小出 『回路』ってことは『TOKYO DRIFT』より前の話だ。じゃあ口惜しい思いがあったんですね。

千浦 なんだろう、妙な感じですね。黒沢清が『TOKYO DRIFT』を推す、というのは。

小出 ともあれ絶対黒沢さんより暇なのに、黒沢さんより今どきの映画を見ていないのはまずいと思いましたね。

千浦 僕は自然に、ずっと観てます。何しろ01年の1作目に感心したんですよ。古典的な潜入捜査の刑事もので、しかも70年代ぐらいにあった車もの映画の現代版をちゃんとやってる。00年には74年の『バニシングin60』をリメイクした『60セカンズ』があり、03年には『ミニミニ大作戦』が(オリジナルは69年)あったからそういう流行の一本だと認識してました。あと、『ワイルド・スピード』の原題 The Fast and the Furious はロジャー・コーマンのキャリア初期製作作品に由来してると思ったし。うまいことやってるなーと思って感心してたら、どんどん続編が展開していって、まさかこんなに続くとは(笑)。特に『TOKYO DRIFT』って——『仁義なき戦い』が一番例えやすいと思うんだけど——主要登場人物が出てこない「広島死闘篇」みたいな感じじゃないですか。この一本は菅原文太じゃなくて北大路欣也が主演になってるという。そこで、ハン(サン・カン)っていうアジア人の名キャラクターがラスト、事故で死ぬんですね。それをやりくりするために、後の作品では時制をちょっと変えてる。つまり、こいつ東京で死ぬんだなってことがわかってるキャラクターが物語に出てくるわけで、あれはヘンだった。あと、『MAX』とか『MEGA MAX』ぐらいの頃の、「これが最終作か?」と「この後も物語があるかもしれない」とがあやふやな感じが楽しかった。

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小出 『MAX』のラスト、皆が三々五々別れていくところで、ハンは「すぐにではないけど、いずれは東京に行くよ」とジゼルに言って、確かその際にはドイツへと向かいますね。とすると、シリーズ3作目『TOKYO DRIFT』の前日譚である『MAX』の後さらに数作『TOKYO DRIFT』の前日譚が続くのだと思わせる仕掛けがありますね。

千浦 そうそう。その終わりそうだった時期以降も、ずっと楽しくて、いつも満足して観てますけど。

市沢 「2」とか「3」のあたりって、日本車がアメリカで結構流行ってたらしくて。欧米の人から見ると、たとえば「2」に「三菱・ランサーエボリューション」が出てきますけど、「こんなに性能が良くて速い車を、こんな安く売ってるのか!」「日本車、やべー!」みたいな感じが(作り手の中に)たぶんあって、日本車がいわば悪役的な立ち回りをするんですよね。結局、物語の中で最終的に勝つのはアメリカ車じゃないですか。「日本車やべー!」「じゃあ戦わせて映画にしよう!」みたいな勢いを感じたんです。

小出 車に詳しくないのでわからないんですが、「ドリフト」っていう技は日本人が開発したんですか?

市沢 そうなんじゃないですかね。

千浦 土屋圭市がゲスト出演で出てる。ドリフトってほんとに速いのかっていう説もあるみたいですけど、たぶん『TOKYO DRIFT』って和魂洋才というか、自分の力を制御できないアメリカの不良が日本に来て「回転数を落とさずに制御する方法を学びました!」っていう映画でしょう。最強の車を、日本車とアメ車を混ぜて作るとか。

小出 ドリフトをするカーレースっていうのは、それまでの映画ではなかったことなんですか。

千浦 ないことはないと思うけど、「ワイスピ」のレースって、テクニカルじゃなくてパワー推しじゃないですか。

中瀬 ニトロ積んで、カチッと押すタイミングで勝負が決まるみたいな。そこの駆け引きですよね。

千浦 あと、カーレースを映画でちゃんと描くことの難しさっていうのがあるんじゃないですかね。結局ド派手な、構造的なアクションになってるところはあると思います。CG混ぜたり、いろんな技術を重ねてそれを表現している。

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——素朴に質問なんですが。あれらのカーアクションたちはどの程度、街々を通行止めにして、本当にやっているんでしょう。

中瀬 お答えしましょう!

千浦 おおっ!

中瀬 『TOKYO DRIFT』をやったグリップ・チームの人にいろいろ話を聞いたんですね。あれは、ちゃんと、通行止めにしてます。ただ、日本でやってないシーンも多いです。それらを混ぜて使うんですね。そもそも許可が出ないので、まず下絵を撮って、合成ではめて。——ちょっと話が戻るんですけど、僕も最近、ある映画の現場で、無人の渋谷スクランブル交差点を撮らなきゃいけなかったんですけど、めちゃめちゃ難易度が高いんです。『TOKYO DRIFT』凄いな!って思うのは、「ここはちゃんと撮るべき!」っていうところをちゃんと撮ってるんですよね。お金と時間のかけ方がまるで違う。

小出 『ICE BREAK』では、タイムズスクエア辺りを疾走してましたね。

中瀬 通行止めにして撮ったものと、似てる道で撮ったものとを、うまく混ぜてるんだと思います。グリーンバックも混じえながら。でも普通に映画観てる分には、わからないですよね。今回ので言うと、冒頭のキューバのレースシーンの最後で車が燃えて跳ぶじゃないですか。その途中のカットはたぶんCG。でも、落ちてるカットは、たぶんほんとに落としてますね。カット割り的に言うと、道から撮ってるのは実際に撮ってて、空撮っぽいスローモーションとかがCGじゃないかなと思います。

市沢 車が好きな人からすると、「こんなにぶっ壊すのか!!」って思うよね(笑)。

千浦 しかも、お高いものを(笑)。

中瀬 車好きの人がテンション上がるシーンっていうのが、シリーズ通してありますよね。たくさんの車を前にして「俺、これに乗る♪」ってキャッキャするじゃないですか。あと、車をチューンナップするシーン。当然の作法として、車についての知識がちゃんとある。僕は全然わからないんですけど。

千浦 あ、私、免許持ってません。

市沢 僕も、免許ないんで。在宅派ですよ。

千浦 在宅派(笑)。でも、市沢さんは広大な青森の地でアメ車と共に育ったお家柄だからね。

市沢 リンカーン・コンチネンタルの上に座ってる、赤ちゃんだった兄貴の写真がありますね。もともと看板屋だったんですけど、父親の車好きが高じて、中古車のディーラーになって。だから子どもの頃は、家は貧乏な借家なのに、何ヶ月かに1回、家族で乗る車が変わるんですよ。超ボロい車から、軽自動車とか、中古のベンツまで。

小出 おお!

千浦 陸送もしてたっつーから、たぶんここのお父さんは『バニシング・ポイント』(71年)のコワルスキーみたいな人ですよ。

一同 (笑)

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市沢 これは車に関わってる人特有だと思うんですけど、仲間とのコネクションが、そんなにデカくないんですよ。街の中の小さなコネクションの中だけで何かが行われていく。その小ささをこのシリーズにも感じて、かすかに共感するんです。

千浦 ひょっとしてバーベキューやってたんじゃないですか。

中瀬 食前にお祈りをしてね。

小出 『4』でブライアンが子供を授かりますね。それを知った直後に、自分が父親になるなんて不思議だとドムと二人っきりで話すところがあるのですが、ブライアンは父が早死にしたために父親の記憶がないんです。一方ドムは、父親の思い出ならいくらでも言えるというのです。その際に最初に出てきたのが、ドムの父親は日曜日の教会の後に集った隣人たちとバーベキューをするというエピソードでしたね。ドムの父親像は端的にみんなを集めてバーベキューを主催する人なんですよ。

市沢 うちはバーベキューはしなかったですけど(笑)、「ワケのわからない友人がいる」っていうのはありましたね。定期的に父親の友人が出入りする感じ。

千浦 お父さんが知らないおじさんを拾ってくるんでしょ。働き手として。

中瀬 ああ、それはすごいですね。

市沢 いきなり父親が「これからお前たちに、事故というものを体験させてやる」って言い出して、兄貴と車に乗せられて、時速5キロくらいで大木にぶつかって「怖いだろ、これが事故というものだ!」って。

千浦 ね。だから僕の中で、市沢さんのお父さんは青森のドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)ですね。

中瀬 じゃああの、レースの前にいろんな車がいっぱい並んでて、ボンネット開けてエンジンの仕組みを見て、「これはどこどこの何たらを載せてるんだ」「おおー!」みたいな文化は実在するんですか。

千浦 実在するんじゃない?

中瀬 レースに互いの車を賭けるとか、「クルマ至上主義!」みたいな世界観が僕にはほんとに謎で。『TOKYO DRIFT』まで、それがとても色濃いですよね。日本の高校生、クルマいじれるの当たり前!みたいな世界観。『MAX』あたりから、レースすることに必然が出てきて、「クルマ至上主義」じゃなくなってくる。

市沢 そういうのを削っていくに従って、シリーズが一般受けするようになっていったんだろうな。

中瀬 そうですよね。僕が、わかりやすく乗れるなって思えたのは、そこからなんです。「この人たちはクルマがすべてなんだ!」っていうことをまず理解する、というプロセスを踏まずに、物語に入り込めたのは。フェティッシュがどんどんなくなっていって。でもそうなっていくことって、車好きの人たちにとってはどうなんだろう。

千浦 うん。その濃さがなくなっていったことを、嘆いてる人たちもきっといると思う。(続く)