編集局長(筆者)は女子校育ちなので、10代の男子が何にきゃいきゃい言っていたのかを直接的には知らない。小学校すら男女別クラスだったので、「スーパーカー消しゴム」も「キン肉マン消しゴム」も具体的にはノータッチである。あのとき相まみえることのできなかった男子たちが、大人になるとこんなふうになるのだなあと、ぼんやり思ったりしたりしなかったり。「ワイスピ」座談会、略して「ワイ談」(千浦僚命名)、第2回です。

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中瀬 たぶん、この展開は予期してなかったんじゃないかなと思うんですよ。いつから、こんなに続編をやるっていうふうに作り方を変えたんだろうなと思って。

千浦 話の持っていき方を工夫してるけど、やってる人たちはギリギリだった時代が、たぶん「3」「4」「5」(『TOKYO DRIFT』『MAX』『MEGA MAX』)あたりにあったんじゃないかな。

中瀬 『MEGA MAX』で、今までのキャラクターたちがわちゃわちゃ出てきて、いきなりパソコンをめちゃめちゃ使えるようになってたりとか、いつのまにかものすごく腕っぷしが強い人たちになってたりとかするじゃないですか。お前らただの「運転がうまい人」じゃなかったっけ?? っていうギャップがありましたよね。急にキャラが変わって、「ここからはシリーズもののエンターテイメントをやります!」っていう宣言みたいに見えました。

千浦 そうだね。『MAX』と『MEGA MAX』の飛躍は、たしかにあったね。

小出 『ICE BREAK』で、ドムの元カノが出てくるじゃないですか。ぼくは、ドムが知らぬ間に遺伝的な父親になり、その枷でいままでのファミリーと敵対関係になる件までの大まかな流れが「4」の段階でできてたんじゃないかと思うのです。

千浦 いや、先々のことは考えてないと思う。

小出 そうかなぁ。僕は各作品のアクションのアイデアも去ることながら、シリーズを通してのグランドデザインをもっていたことにすごく感心しましたよ。デカいなと。

中瀬 どこから考えてあったんだろう、って毎回思うんですよ。でも、都合が悪くなったら退場させるんだ、っていうのも感じますよね。

千浦 そして、やっぱりまた出した方がいいなと思ったら、生き返らせる。『魁!! 男塾』方式。あてにならない「王大人(ワン・ターレン)、死亡確認!」。あるいは「男たちの挽歌」方式として、そろそろサン・カンの双子が登場してもいいんじゃないかと思う。

中瀬 (笑)。今回殺された、ドムの元カノのエレナ(エルサ・パタキー)は、当初ドムとは付き合ってなかったじゃないですか。『SKY MISSION』の時につきあうようになったわけだから、僕もたぶん、先のことは考えてなかったと思います。

小出 いやぁ、ドムを取り巻く大きな流れは「4」からあったように思いますよ。疑似家族の中でいよいよ家父長らしくなるのだけど、と、その矢先に知らぬ間に遺伝学的にもお父さんになっていたってのは、ある程度考えてたんだと思うんですよね。そのために、レティ(ミシェル・ロドリゲス)と関係を一度解消し、別の女性と関係をもつ必要があったんですよ。

千浦 そうかな。そのためかな、ミシェル・ロドリゲス退場は……

小出 だって、絶対復活させる形で殺されてますよね。死体は画面に出てこないし、目撃したとされる人の証言でも「顔が燃えてて見えなかった」って言ってる。あえて顔を見せずに死んだことにしたんですよ。

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中瀬 『MAX』でレティの死をドムが確かめる場面、演出がめっちゃ冴えてますよね。レティの死を知らされたドムが、現場に行って、レティが殺される瞬間の幻影を見るところ。道路に残されたタイヤ痕をきっかけにして現在と過去が同一画面で進行していく。そこから葬式のシーンに行くんですよね。その葬式を、ドムが遠くから見てる。その人物配置と画面のつながりが、めちゃめちゃうまいんですよ。ここが、このシリーズの演出のピークだな!って思うくらい(笑)。

小出 『MEGA MAX』で、強奪を予測して、自分たちでセットを作って、車を何回も何回も走らせるシーンがあるじゃないですか。

中瀬 どうやっても監視カメラに残ってしまうというくだりですね。

小出 ぼくは、走ってる人を見てる人たちのわちゃわちゃしている感じが好きなんですよね。

千浦 お互いの腕試し、みたいなところね。

小出 気心しれた俳優さんの開いている感じをグループショットで上手に拾っていますよね。うまいなあジャスティン・リンって思った。その点で『ICE BREAK』はちょっと心配だったんですよ、監督が変わってしまって。

中瀬 なんか、よそでうまくやった監督をいっぺん試してみるか、みたいなシリーズになってきましたよね。ジェームズ・ワンの起用なんか、特にそんな印象を受けます。『ミッション・インポッシブル』もそうですけど。

千浦 監督が変わっても、大筋の雰囲気が崩れないからすごいよね。

小出 今回、ちょっとだけケチをつけるとすれば、敵が車を遠隔から自動で動かしてしまいますね。あれがなんか寂しいなと思ったし、この映画世界で起きてはまずいことが起こっているとヒヤヒヤしました。カーアクションの面白さのひとつは、観客である一般の人間が自力で操縦できる、一番デカいメカを、スターたちが自在に操る奔放さにあるんだと思うんです。いつもは道交法に縛り付けられているけど、彼らはそこから自由になっていて、いろんなアクションを見せてくれる。そこに爽快感がありますよね。しかし、それを遠隔で、人間の手を介在せずに動かしてしまうというのは、ああ本当にこの人たちはこの映画世界が顕揚する車への愛情がないんだなと思って寂しいし、敵対するキャラとしてはすごくまっとうな有り様かとも見えるのですが、この映画世界にそういう人がいていいのかと落ち着かない感じがありました。

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千浦 悪いよね。あれこそが、ワイスピワールドにおいて、シャーリーズ・セロンたちがほんとに悪い奴らだっていうことの証明なわけですよ。絶対、主人公集団と相容れない思想。おい、どうしたんだシャリセロ、「マッドマックス 怒りのデスロード」であんなに車と結びついてたのに、っていうね……

小出 ともあれ、一般人が動かせる最大のメカである車を自分の体で自在に操ることが楽しいんだねという当たり前が、敵の出現で改めて見えてきた次第です。

千浦 シャリセロが「ゾンビ・タイム!」って言うところね。

小出 そう、ゾンビなんだよね! 人じゃないんだ!っていう。

千浦 過度のテクノロジーとか人間不在感、「オートメーション・バカ」化することは、このシリーズの世界観では敵ですよね。『SKY MISSION』のクライマックスも、ドローンとの戦いだし。国際犯罪組織の武器商人の必殺兵器なんだけど、「俺らはストリートの人間だし、地元の利がある!」っていうことで戦うでしょう。今回のクライマックスも、相手方が潜水艦って、それはもう戦力のバランスから言ってこちらが車である必然がないんじゃないかと思うんだけど(笑)、主人公たちは車にこだわるんだよね。

中瀬 そのへんをわかってやっていたのが『SKY MISSION』だったと思うんですよね。「いいか、車は空を飛べない」っていうのが、なんていいセリフだろう!と思って。

千浦 冒頭でブライアンが子どもを遊ばせる時に言ってるんだよね。子どもがおもちゃの車とか投げてて、それに対して「車は飛ばないから」って言ってる、それに対してアゼルバイジャンでは車ごとパラシュート降下するわ、ドバイでビルからビルに飛ぶわ、飛びまくりのスカイ大作戦。……あっ、ところで余談ですけど、原題とは違う邦題ってうまくいかないことが多いけど、このシリーズでの『SKY MISSION』とか『ICE BREAK』とかは、直訳のふりをしながら、ぎりぎりまで真面目に考えられたタイトルだと思いますね。『ICE BREAK』って、クライマックスの潜水艦との戦いを指しているのと同時に、懐かし80年代サイバーパンク小説、ウィリアム・ギブソンの『ニューロマンサー』なんかでハッカーがセキュリティシステムを破るのをそう言ってたのにもかけてあるみたいで、本当にちゃんと考えられてるなあと思います。

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小出 もうひとつ言うと、『MEGA MAX』までは狙いがお金でしたけど、それ以降はお金じゃなくなったんですよね。だからタイトルも「MISSION」としている。

中瀬 みんな、犯罪者じゃなくなっちゃったんですよね。無罪放免のセレブたちが集まってミッションを果たす。

市沢 そうだね。だって目的が、自己顕示だもんね(笑)。シャーリーズ・セロンが、何のためにこういうことをやっているのか聞かれて「私の存在を知らしめるため」って言うじゃないですか。

中瀬 「川辺のワニ」って言いますよね。せりふとして、すげーだせえなって思うんですけど。

一同 (笑)

中瀬 でもそれを、ちょっとかっこよく言うじゃないですか。シャーリーズ・セロンってやっぱうまいんだなあって思っちゃいました。だから今回、シャーリーズ・セロンが最後、逃げてくれたことが僕はうれしくて。

千浦 続くね、あれは。

中瀬 そう、「続いた!」って思って。今回、乗れなかった人っていうのが実は周りにわりといて、その理由としては「お前まで仲間になるのか」感、だったようです。

千浦 ああ、ジェイソン・ステイサム。

中瀬 ジェイソン・ステイサムまで仲間になるっていうのが、『ドラゴンボール』じゃないだろう!と。

千浦 あと、ヤンキー漫画のセオリーね。「タイマンはったらダチじゃ!」っていうので仲間が拡大していくのね。

中瀬 それまでは、本当のボスは仲間になってないですよね。ボスの手下でやってたけど実は騙されてた、殺されかけてた人間が、ドムに救われて味方になる。でもジェイソン・ステイサムはそういうプロセスなしに普通に参加していて。車いじりながらちょっと仲良くなったりとか。最後、食前のお祈り、お前まで手をつないでくるのか!っていう。

千浦 ヘレン・ミレン演じるお母さん出てくるし、ちょっとマザコンというか、母親に頭が上がらない様子が滑稽に描かれたりね。キャラがどんどん人間味や可愛らしさを出す方向に行っちゃって、ちょっと萎えるというのもわかります。

中瀬 『SKY MISSION』で最初に登場してきたジェイソン・ステイサムは、「この人、絶対強い!」っていうのが一発でわかったじゃないですか。アクションもすごくいいし、とにかく絶対強い、絶対勝てない男が出てきたって思ったのに。

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小出 ところで、今回、家父長がファミリーから離れて、父親不在の集団が生まれたじゃないですか。あそこで、王位継承みたいなことが行われるのかと思ったら、それもなく、リーダーがいないまま、ミッションをそれなりに遂行しちゃいましたね。じゃあ、ドム、要らないのかな?って思っちゃうよね。ドムがいないとやっぱり、この集団は機能しづらいなぁとか、じゃあ、ドムの代わりの父親役は俺がやる!いや俺だ!では、どうぞどうぞとかあってもいいかなと想像しましたね。ともあれ、考えると、ファミリーって散々口にするのは、ドムとその彼女と妹と義理の弟ぐらいですよね。その他の人はまた違った関わり方なんですかね。

千浦 僕は今回、血縁ではないファミリーが、血縁の子どもの登場によって崩壊の危機を迎えるというのが、非常に現代的だと思いましたね。血縁の家族だけを大事にする話なんて、あまりにも単純すぎて、今の観客の感性には合わないと思うんですよ。最近公開された日本映画で『湯を沸かすほどの熱い愛』っていうのがありましたけど、あの作品のどんでん返し的なポイントのひとつは、子どもたちのためにすごく頑張る母親が主人公なんだけど、実は子どもと血がつながってなかったっていうこと。今求められているのは「血がつながっているから大切にする」っていうこと以外の、「血縁じゃない家族のことを考えよう」ということかもしれないと思うんですよ。

中瀬 「家族」ひとりひとりの役割も、ぐじゃぐじゃになってますよね。レティもいわゆる「闘う嫁!」っていうか(笑)。これ、他になかったかもしれないなあって思いますね。嫁はだいたい、守るべきものとして扱われて、人質になったりしますけど。

小出 今後、父権を継承していくっていうくだりはあるのかな。父親としての権利譲渡というプロセスの伏線になっていくんじゃないかなという気もします。

千浦 『ローガン』と一緒で、幕引きを考えるともう、ドムの殉死しかないですよ。『太陽にほえろ!』みたいな。「それでもファミリーは続く」っていう描き方で終わるしかない。

中瀬 あの、赤ちゃんが頑張るんじゃないですか? ブライアンっていう名前がついたし。

千浦 それと、元祖ブライアン(故ポール・ウォーカー)の息子が、コンビを組んで。

小出 ドムとブライアン、頭角を現していた人間が2人もいなくなったのに、今回、なんとなーくやれちゃってたじゃないですか。そこが残念だったなと思って。

中瀬 今回、ポール・ウォーカーが実際に亡くなったから、「今後はヴィン・ディーゼル主役で行きます」っていう宣言みたいな映画だと思ったんですよ。相棒の物語ではなく家父長の物語なのだということを、明確に打ち出してる。シリーズものとして「こういうノリで行きます」っていうことが、作っていくうちにどんどん方向修正されていっているんだなという気がしてて。

小出 先程も話しましたが、あの2人の違いで印象的だったのは、ドムには父親の思い出があるけど、ブライアンにはないところです。父親の思い出であるバーベキューを再現するドムと、父親の記憶のないブライアンの「家父長争い」は、父親の記憶の有り無しの段階ですでに終わったと僕は思った。ブライアンはライバルだけど、父親ってどういうものだろうという具体的なビジョンを持たないので、バーベキューを主催する人ではなく、準備を一緒にする仲間なんですよ。

千浦 彼らがレースで競り合うと、いつだってドムがちょっとだけブライアンより上なんですよね。かといって、全面的にヴィン・ディーゼル推しでは、今までの良さがなくなってしまう。それをわかった上での屈折というふうに僕には見えました。実の子どもができたことで、今までみんなで意志的に築いてきた「血縁じゃないファミリー」が崩壊の危機にある、という物語。このシリーズってざっくりしてるし、「うーん、巧い!」っていう物語ではないんだけど、でもちゃんと伏線があって、はっきりと面白いですよね。(続く)