話はさかのぼって、この日の集合時間のこと。一番最後に現れた千浦さんが紙袋を持っていて、その中にはワイスピ後半作と関連作のDVDがぎっちり入っており、帰りに、とても気前よく、編集局長にもろもろ貸してくれたのだ。座談会を終えてから、俎上に上がった作品を1本ずつ観る。ひとりで無理矢理観るよりずっと盛り上がる。そうだ、これはひとりで観る映画じゃない。ヤローどもとわいわい観る映画だ。次回作公開時には「みんなで観る」企画をやろう。映画館に集合して、みんなで観て、語ろう。

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千浦 VFXと、本当に撮っている部分との混ぜ方が絶妙で、「全部本当に起こってることとしか見えない」っていうのを全力で頑張って今ここまで達成できてるっていうのが、この映画、このシリーズだと思うのね。あんまり嘘くさかったり、CGにしか見えなかったりしたらダメだから。

中瀬 やっぱり毎回、街ロケしてるのが大きいんじゃないですか。巨大な金庫を引きずって走るのも、街でちゃんとやる、っていうのがえらいなって思う。そこで生々しさが出ますよね。あと、シリーズで共通して言えるのは、追いかけられてる車をどうやって止めるかっていうアイデア対決。街のものをうまく使って、小ネタを出してくる感じが、毎回うまいし、面白いですよね。

千浦 ただの追いかけっこで速いか遅いかじゃ絶対ない。赤外線追尾ミサイルを車で誘導して潜水艦にぶち当てて勝ち!みたいな。また、「これがこう来てこう持ってきてこう」っていうクライマックスが、象徴的な意味を孕んでいたりする。今回の『ICE BREAK』で言うと、あれだけ大きな爆発を前にしたらドムが焼け死にそうになるけど、みんなが一斉に盾になって守るじゃない。『SKY MISSION』だと、ブライアンを死なせないっていうのが強調されてたし。

中瀬 それを、言葉を交わさない感じでやるのがかっこいいですよね。

小出 今まではドムがみんなの命を救っていたけど、それが逆転したのが今回の一番面白いところだと思う。しかもそれを、せりふじゃなくて画で見せてるっていうね。あの引っぱり合いのシーンも印象的ですよね。それぞれが、それぞれの車で、四方八方からドムの車を引っぱるという。

千浦 みんながドムを引き留めようとしてるというね。

小出 みんなで一方向から引っぱった方が絶対早いと思うんだけど(笑)。

千浦 前後から挟んで止めればいいじゃないかって思うけど(笑)、でも、ファミリーのメンツが絆を結ぼうとし、ドムは断ち切ろうとすることの絵面としてはやっぱりあれがいい。

小出 みんなが「僕のお父さんだー!」って言ってるみたいな。

千浦 大岡越前が子どもを取り合う母親を裁くやつみたいだったね。「あいや、子が痛がるを見て、先に手を離すがまことの母親!」。でもまあ、車が擬人化されてるんですね。彼らの身体の一部。車の選択から、ドライビングの仕方まで、それぞれのキャラクターを象徴していて。

小出 それに、このシーンは先程千浦さんが語っていた、爆風からドムを守るために、ドムの周りを盾になって囲むこのと対になるいいシーンですよね。ともあれ、やはり映画観た帰り道で、マネしたくなるもんなんでしょうね。

中瀬 「マネしないでください」っていうメッセージは流れますけどね。

千浦 その都度映画館で、「しねーよ!」って客席から笑いがでるんですけども。

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市沢 何でしょう、いまだにこういう話ができるのって、やっぱりアメリカ映画なんですかね。

中瀬 日本映画でこういうシリーズものがなぜ出てこないんだろうって思いますけどね。同じシリーズで監督が替わるみたいなことも、ないじゃないですか。『男はつらいよ』が新人監督の登竜門になればよかったのに、って思うんですよね。「お前、今度寅さんやってみないか?」って。

千浦 ああ。それ、すごい。「ホラー界で新機軸を打ち出した清水崇さんの『男はつらいよ 寅次郎呪いの館』」みたいな。それは観たいな。

市沢 それは、ヴィン・ディーゼルの作家性ってことなんですかね。監督が替わっても、揺るがない何か。

中瀬 チームの中に、すげー頭のいい人たちがいるっていう印象がありますけどね。

千浦 次とか、どうなるのかな。いよいよ中国ロケじゃないかな。違うかな。

中瀬 僕は最近、仕事でフィリピン・ロケに行ったんですよ。カーアクションと、バイクのアクションが多かったんです。で、高速道路の片側を封鎖できると。爆破とかも、街なかでガンガンできると。僕は芝居を撮る「Aユニット」だったんですけど、その間、「Bユニット」が地道に車を撮り続けているんですね。で、やっぱり、車の撮影ってめちゃめちゃめんどくさいんですよね。ひとつのセットアップに対して、撮れるカットが少ないけど時間がかかる。そこにアクションを混ぜるとなると、単純に大変なんです。相当お金をかけた映画でしたけど、その予算規模の何倍分も、手間暇がかかってると思います。

——このシリーズにおける、女性像についてもお聞きしたいです。

中瀬 今回なんか、敵ボスは女性ですからね。さっき話に出た筋肉ハゲ問題で言うと(笑)、レギュラー陣に筋肉ハゲが増えすぎちゃったから、バランスを取るためにシャーリーズ・セロンを置いたのかなと思いました(笑)。

小出 お母さんが出てこないから、女性はそんなに気が利いた描かれ方はしていないですよね。ドムが言う「家族が大事」を復唱してるだけの妹とか。だから、レティがお母さんになったら、何か変わってくるかもしれないですね。お父さんとの対立もあるだろうし。

中瀬 何らかのグループが出てくると、必ず女性を入れようとしているんですよね。それが、アメリカ映画が抱えるポリティカル・コレクトネス的な配慮に終わってる気もするんですけど。

小出 うん、そこが残念だよね。もっと、ありそうだけどね。

中瀬 そうなんですよね。人種については、さっき言ったように、うまく行ってる気がするんですね。でも女性に関して言うと、もっといろいろできるだろうと思う。

小出 そもそも「車なんか何が面白いの?」っていう視点があってもいいと思うんだけど(笑)。

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中瀬 ドライビング・テクニック至上主義のお話だから、女性でも対等に戦えるのかなって思ったんですよ。技術があって、立派なエンジンを詰めば、互角に戦える。それがだんだん、レティも格闘家と取っ組み合うようになってきて、近作はちょっと萎えるんですよね……

小出 そこも、女性ならではの戦い方があるかなあと思ったら……

中瀬 ない!

小出 ないよね。男性の方は全員、戦い方からキャラを立ち上げていますよね。

中瀬 そうなんですよね。特に、ジェイソン・ステイサムのアクション。『ICE BREAK』で言うと、脱獄するところですよね。ドウェイン・ジョンソンはパワープレイで突き進むんだけど、ジェイソン・ステイサムはものすごく機敏で、しかも何がすごいって、ジェイソン・ステイサム本人がやってるっていう。

千浦 ドウェイン・ジョンソンとの見え方に違いをつくるために、敏捷さをアピールしたパルクール・アクションをやってる。ジェイソン・ステイサムは単体で別の映画に出てれば豪傑キャラのアクションで通るひとなんだけれども。

中瀬 この映画に出てくる人たちのえらいところは、ほんとにアクションできる人たちがやってるんですよ。ちょっとしたアクションにしても、日本の俳優さんはみんなアクションができないので、アクション監督も「いかにごまかすか」勝負になっちゃうんですよね。『図書館戦争』に関わった知り合いから聞いた話では、岡田准一はめちゃめちゃできるんですよ。スタントマンレベルで行ける。となると、顔を映してもいいので、撮れるカットが格段に増えるんですよね。ワンカットでもいい。寄りでも引きでもいい。『無限の住人』とかはなんか、いろんな人がぐじゃぐじゃしてるだけじゃないですか。

千浦 みんな割りと、ぼーっと立ってるだけでね。キムタクは佐藤健のようには走れないし。

中瀬 そう、『るろ剣』はそういう意味では立派だったと思うんですけど。

千浦 こういう話を載せたい。

中瀬 役者の身体能力って、本当に大きいんですよ。『マトリックス』のキアヌ・リーヴスもそうですよね。アメリカ映画が「ちゃんと全部見せるぞ」っていう方向へシフトしたのは、やっぱり『ボーン』シリーズからですかね。めっちゃカット割ってるんだけど、何をやってるかがすごくよく見えるじゃないですか。日本にもできる人たちはいるけど、やっぱりそういう映画を観てしまうと、次元が違うなと思ってしまいますよね。

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——そろそろ、中瀬くんが次のお仕事へ行かねばなりません。言い残したことがあればぜひ。

千浦 あら。

小出 ……『ICE BREAK』の話をあんまりしてない気がするけど。

一同 うーーーん。

市沢 氷越しに車が見えたカットがすごくよかったです。

小出 ああ、下からね。細かいですよね。何千万かかってるんだろう。

千浦 あれ、CGじゃないの?

中瀬 俺、CGだと思いますよ。

小出 CGだったらもっとクリアに見せるでしょう。えらく、くぐもってるなあと思いながら観たんだけど。

中瀬 ……っていう、そのへんがうまいんじゃないですか、この映画は。あとほら、赤ちゃんの芝居も。

一同 あーー。

市沢 赤ちゃんが1人参加してるだけで、映ってないけどこの敵キャラ集団の中に「おむつを替える人」がいるんだよなあ、って思っちゃう。

小出 (笑)

中瀬 赤ちゃんのカットは、ちゃんとジェイソン・ステイサムの肩なめで撮ってるんですよね。たぶんフルCGとかじゃなくて、赤ちゃんの表情をたくさん撮りためて、そこからマスクを切り抜いてるんじゃないかという気がしました。

市沢 確かに、めっちゃうまかった。

千浦 うん。タイミングすげーなと思った。

中瀬 エンドロールで3人ぐらい、名前が出てましたよね。おむつのCMとかでも、何人も待機させて撮りますからね。

市沢 そうなんだ。お母さんと一緒に待機を。

中瀬 そうです。オーディションをしてね。こちらがやらせたいことを、してくれるかどうか。

千浦 うん、そういう話が聞きたかったんだよ!

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中瀬 あと、言い残したことで言うと、シーンバックのうまさ。同時多発感。まず潜水艦の中に入っていくチームがいて、外で止めるチームがいて、一方その頃ドムは、一方その頃シャーリーズ・セロンは、っていう中で緊迫感が持続しているじゃないですか。

千浦 その同時感を、全然見間違えないよね。

小出 シーンバックって並行モンタージュのことですよね。僕としては、潜水艦とやりあっている車たち/ドムの実子の救出作戦をするジェイソン・ステイサム/その救出を待つドムの並行モンタージュに同じ速度で時間が流れているような感覚がなかったなぁ。車の疾走感が強く残るからですかね。

中瀬 このシリーズにおけるシーンバックって、チームの一人ひとりが別行動するようになってから進化したと思うんですけど、それって単純に、それぞれが車っていう個別の空間の中にいるから必然的にシーンバックを描かなきゃいけない宿命があるからなんじゃないかと。で、車に乗ってない人間とのシーンバックも、僕はうまくいってると思いました。それぞれの個性を生かして、「こいつはパソコンなんだ」「こいつは肉弾戦なんだ」「こいつは文字が読めないんだ」っていうのでわちゃわちゃしている感じ。

一同 (笑)

千浦 個別の空間だからこそ、無線でのやりとりが効いてくるんだなあと思った。70年代の車ものでも、無線あるいはラジオが重要なアイテムになってた。むちゃむちゃ感動的だった、『バニシング・ポイント』のラジオに、『ダーティーメリー、クレイジーラリー』(74年)の無線という道具立て、あれがもう標準装備になってる。

中瀬 あと、シリーズを通して、カーナビがどんどん進化してますよね。今「1」を観ると、移り変わりが激しくて。最先端のテクノロジーにちゃんと敏感だなと思います。

千浦 だって、1作目から17年越しだもん……!

市沢 映画美学校とそんなに歴史が変わらないじゃないですか!

一同 (笑)(2017/06/7)