年の瀬の映画B学校は、この人たちに任せることにしている。事務局のミスター映画美学校、市沢真吾。事務局にいたりいなかったり、脚本書いて賞を取ってみたり、神出鬼没のスズキシンスケ。今回はそこに、B学校座談会企画常連、映画をコトバで解体する男・千浦僚を交えてみた。よくある「2017年の振り返り」とかには、何だか全然ならなかった。でもとっても大事な話をしてる気がした。それぞれの場所で、それぞれの事情で揺れてるおっさんたちによる「駄話」。正月休みの退屈しのぎに、もしよかったら。

【市沢真吾】
YouTubeというのは自分の見た動画の傾向から勝手におすすめを放り込んでくる機能がある。私は今まで矢沢永吉という人に全く興味がなかったはずなのだが、ある日突然「暴徒化する観客にアドリブで説教する矢沢永吉」という動画がおすすめに入ってきた。それからというもの、ちょっとだけこの人のことが気になり始めている。映画美学校事務局。フィクション・コース第1期修了生。

【千浦僚】
1975年生まれ。映画感想家。「映画芸術」「キネマ旬報」に寄稿。90年代半ばより大阪のPLANET studyo plus oneやシネ・ヌーヴォのスタッフ、2011年から2014年までオーディトリウム渋谷スタッフ。2017年洋画ベストは『エンドレス・ポエトリー』。邦画ベストは『エルネスト』。2002年から2010年まで映画美学校試写室上映担当。

【スズキシンスケ】
売文・日英/英日翻訳のフリーランサー。まだギリギリ20代。年上と交流する方が気楽なのだが、そろそろ年下も増えて来たので、対策を練りたい(性的な意味ではない)。フィクション・コース第12期初等科修了生。

3人3

スズキ 僕は、今年観た映画をリストにしてきたんですけど、びっくりしました。まあ少ない! 試写を含め、これで全部です。旧作と短編・中編の一般公開前の映画を除いて、観たのはたったの18本だけでした。今年は7月まで、ひょんなことからとある脚本の大センセイの下について、仕事で脚本を書いていたので、観たくなかったんですよね。特に邦画を。

市沢 書いてる時は、観たくない?

スズキ 人によると思うんですけど。参考にするためにガンガン観る人もいると思うんですけど、僕は洋画を観てました。『羊たちの沈黙』とか。でも昔自分が好きだった邦画を観てしまうと、現在進行形で自分が書いてるものと、何も知らない頃に好きだったものの乖離を感じてしまって危険だ!と思って。それで、「もう俺、これ以上既存のJポップの世界と関わってたらマジでイカレるな」って思い詰めてしまって、比喩じゃなく本当にドクターストップがかかり(笑)、大脱走を果たした後、一番最初に観たのが『夏の娘たち ひめごと』。これ、仕事の脚本を書いてる最中に観てたら僕は、心が完全に壊れちゃったと思います。

市沢 なんで?

スズキ 素晴らしかったんです。非常に。どちらかというと、エンタメとかテレビにかかるような映画ではない——っていう表現が正しいのかわからないですけど、そういう作品だったのですが、この作品を観た時に「そうだ、映画って、これでいいんだ!」って思い出して。一般的な完成度とはかけ離れたところで、作品としての強さがとてもあったので。

市沢 その、シンスケくんの「乖離」が気になるなあ。作ってる時は観たくない、っていう心境が。

スズキ 例えば、千浦さんはこの前(イエジー・)スコリモフスキにインタビューしましたよね。

千浦 したした。こないだ、ポーランド映画祭と年明けの『早春』リバイバルの宣伝のため来日してたスコリモフスキ監督に、『早春』の記事をつくるために。胡乱な聞き手でしたが。

スズキ もちろん、千浦さんであれば過去作もほとんど全て観たでしょう。

千浦 いや、フィルモグラフィー中で短編と長編映画を6本観てない。まあ、話題になるかな、というもので、観ることの出来るものは観直して臨みました。全然そのことは活かされなかったけど!

スズキ 僕も、ある作品について書く時や、監督や俳優にインタビューする際は当然過去作の復習はするんですよ。『ブレードランナー2049』を観る時には、旧作の『ブレードランナー』を観ましたし。でも自分が新たに、仕事で、Jポップなものを作ろうとしている時に、ハードなもの・お金じゃなくて人生をかけて映画と対峙しているものを観てしまうと、よけいなことをしたくなっちゃう。

市沢 引き裂かれちゃうってことか。

スズキ そうなんですよね、自分の中で。心の中で、器用に整理がつかなかったり。どっちかがどっちかに、よけいな信号を出すんじゃないかっていうのが怖くて。

——千浦さんは、観る映画はどうやって選んでいますか。

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千浦 あまり選んでない。某映画雑誌から「これを観ろ」って、月に8本指定されるので(※キネマ旬報の「星取りREVIEW欄」担当)それだけで新作邦画を年にだいたい100本近く観るし、それプラス数十本は間口を広げるために観るし、そもそも何でも観たい。あとは、時間があるか、あうかどうかだけ。それでも見逃しばっかり。洋画や特集上映、映画祭もかなり見逃してる。

スズキ 好みとかは、反映されずに?

千浦 その欄に関しては全然こっちの意向は関係ないし、出し抜けに、数カ月先までのラインナップと試写状が届いて、2週間ごとに来る締切に対象作品4本ずつの短評書く。ここ6年くらいやってる。

市沢 千浦さんは映写技師でもあるから、もともと「定期的に観る」星のもとに生まれてますよね。

千浦 ここ2年はシネマヴェーラ渋谷で映写のバイトもしてるんで、邦画の旧作特集で、ブツとしてのフィルムの状態によっては、例えば、すごい傷んでるやつとかは、全部つきっきりで観てることもありますね。あと、邦画でも洋画でも、レアだったり、存在の見当すらつかなかったような旧作に沢山遭遇するんで、「新作」「旧作」っていう区別が、あんまり僕の中にはなくて。

市沢 ほお。

千浦 ただ、新作の方が話がしやすいっていうのはありますね。まだ評価が定まってないから、健全に意見を交わせる。でも旧作って、時代に淘汰されていくじゃないですか。だから「旧作を観ておけば安心」っていうファン層もいるでしょう。まあ、「駄作にあたるほど深掘りする旧作ディガー」という尊敬すべきガチ勢の方もいますけど。本当だったら、その人が初めて観る映画なら、新作も旧作も一緒のはずなんですけどね。その年のベストテンを決めるっていうのも、映画好きがあえてやってる、恣意的な行事じゃないですか。「その年の」っていう制限を加えて、話しやすくしているんだよね。

市沢 千浦さんは、「話しやすくしている」ことに対する、何か、違和感があったりするんですか。

スズキ ぶっこむなー!(笑)

市沢 だってそもそも「年間ベスト」って、「最近映画観てないなあー、チウラくん、何かいいのない?」っていう、私のような人のためのものじゃないですか。

千浦 そういうの、あるね。あるある。でも私に聞かれても有益な答えはない!偏ってるから。まあ、何にせよ語り合う機会ができるのはいいことだと思いますが。

市沢 「面白かった」「面白くなかった」みたいなことって、本当はもっと、日々更新されたり、波のように連なっていて、「トシとかで区切るもんじゃねーよ!」っていう思いがあるのかなと思って。

千浦 かつて、井川(耕一郎)さんや高橋(洋)さんが、「映画芸術」あたりでベストテンの場を借りてかなりの「蛮行」をはたらいていたじゃないですか。

スズキ (笑)

市沢 「その映画をいったい誰が観てるというのか!」っていうラインナップね。

千浦 そうそう。誰が観てるんだろうという、上映機会の少ない自主映画が、ベストテンに平然と並ぶとか、映画でもない出来事とか時事がその年の映画ベストテン欄に挙げられるという。ああ、それでいいんだ!って思って。よくないのかもしれないけど(笑)。それを目にして、未知の作品を知ったり、何か意見の表明をされるというのはよかったような気が。

市沢 (笑)

千浦 ちなみに、それにならうならば、僕の2017年のワーストは、『童貞をプロデュース。』主演の加賀賢三さんに対する、松江哲明さんと直井卓俊さんの対応です。作品じゃなくて。

市沢 それは、ネット上でお二人がアップした文章についてですか。

千浦 そう。連名の声明。当事者じゃない人間にはわからないこともあるんでしょうけど、あれは「謝ったら死んじゃう病」みたいな感じだったじゃないですか。あと、加賀さんがアダルトビデオの現場に連れていかれてうんぬん、みたいなことばかりが突出してるようだけど、本質はそれだけじゃない気もする。本当は彼らみんなで一緒に作った作品であるはずなのに、松江さんの中で「俺が作った」っていう認識が強すぎるのかもしれない。こちらは『童貞をプロデュース。』がバージョンが変わっていくのを観てたし、上映もしてた。楽しんで観てたし、いい映画だと思ってた。加賀さんにここまでのしんどさがあるとはわかってなかった。観られ続けてほしい映画だと思ってたけど、主人公のひとりで共作者の加賀さんがイヤならこのままでは上映できないのは道理。私は松江さん直井さんとは仕事上のつきあいのある知人で、いい仕事をしてシーンのなかで伸していった彼らを偉いと思ってるけど、この件に関しては振る舞いがよくないんで困惑してます。私自身はこれの加害被害でいえば外野だけど加害側にいる気がするんで苦いしやりきれん。

市沢 昔、こういうことってあったかなあ。カメラの前で公然と対立が繰り広げられるっていう。僕の中では野坂昭如が大島渚をぶん殴ったあれを思い出しましたけど。

一同 (笑)

市沢 かつてあった関係性が終わった瞬間みたいなものを、映像として観るってことは、あまりないなあと思って。

千浦 逆に言うと、僕らがそれを知る手段は、映像しかないんだなって思いますね。映像で見る彼らや出来事がこちらが抱くイメージのほとんどだという。あと、僕らは映画が好きだから、世の中の文化や情勢の変化を、映画を通して知るみたいなところがある。もはや映像すらもない状態で、映画に関係してることとして、映画というもののイメージにキズや曇りを生じさせたハーヴェイ・ワインスタインの性犯罪と、そのほかの俳優や監督のセクハラも今年のすごい問題。映画界で顕著だしわかりやすいから表面化したことなんだろうけど、あれは、世の中全体のことだとも思うんですね。

紳介2
スズキ Twitterで「#MeToo」っていうハッシュタグが広がったじゃないですか。そんな感じで、数年前から既存のマスメディアに載らなくても、色々なことが告発できるようになりましたよね。だから、もう色々な建前やウソが、それを「フィクション」と言い換えてもいいのですが、可視化されるようになったと。一方で、「コンプライアンス」っていう言葉がお笑い番組の中で平気で使われて、作り手も視聴者もそれを承知で成り立つ笑いが蔓延している。つまり「これは作りものですよ」「嘘ですよ」「フィクションなんです」っていうことをテレビは公言している。僕はプロレスも相撲も大好きで、だからこそそれで例えますが、ガチンコもあるけどプロレスの勝敗は決まってるんですよ、相撲には八百長があるんですよ、相撲協会的には「無気力相撲」という言葉ですが!って言い切ってもなお、興行が続いている感じ。で、ネットにこそリアルがあるみたいな風潮もあるでしょう。でも当然、単純にそういうわけでもなくて、ネットも玉石混淆ですよね。だから『童貞をプロデュース。』事件も、まずTwitterで情報が流れてきてそれを知って、YouTubeに動画が上がってるって言われた時に、「なぜYouTubeに映像が上がってるんだ?」って思ったんですね。誰が撮ったの? 誰が上げたの? って。これ、プロモーションの一環なんじゃないか、つまりこれもプロレス的な「フィクション」なのでは?とさえ最初は思ってしまった。炎上商法的な何かなのかなと。

千浦 ガチだったんだよね。立場が強くないほうが有効な道具として映像を使ったのは"あり"だと思うし、もはやこれは全部ひっくるめて《『童貞をプロデュース。』事件》だと思うけど。すごいダサい、大きなくくりで言うと、SNSは数年の内にどんどん変容してて、それに引き摺られて僕らの意識も変わりましたよね。行動様式というか、フィクションとかリアルとかに対する視点とか姿勢とか思想とかが、どんどん変わっている。昔は、テレビが普及したら映画の観客が減るんじゃないかとか、ラジオのリスナーが減るんじゃないかっていう考え方だったけど、ネットやスマホで提供される情報って、すごい細切れの時間でも使えるもんだから、人間の有限な意識とか関心とか集中力の持続が、それにどんどん持っていかれてると思うんです。だからそういう日常を送る人たちが、映画にどれだけ時間を割くかって考えたら、どんどん後退していそうな気がするんですよね。

スズキ 現代人は、文字を、8秒ぐらいしか読まないそうですよ。「読む」という行為は8秒しか持続しないから、5秒ぐらいの広告動画が増えてるって。

千浦 そうそう。あるいは、それくらいキャッチーでわかりやすくないものは、広まりづらいという。

市沢 これは年齢のせいかもしれないんですけど、僕がYouTubeを観るのって、「新しい何か」を求めてのことではないんです。過去のものだったり、今まで経験してきた感情を、今の人たちが再現してくれているのを喜んで観てる。まったく知らないものに触れるための場所ではない気がして。

スズキ 市沢さんはYouTubeでどんな動画を観るんですか。

市沢 80年代の衝撃映像。

千浦 (笑)

市沢 サラ金会社の社長が「世の中、カネなんだー!!」って万札をばらまいてる映像とか。岡田有希子が自殺した直後に現場に踏み込んでいく梨元勝とか。

千浦 そんなのばっか観てるの? 僕は『タモリ倶楽部』ばっか観てる。

市沢2
市沢 あと、キャロルが解散する時の特別番組で、まずバイクと車でキャロルの面々がばーーーっと走ってて、そこに矢沢永吉のインタビュー音声がかぶさるんですよ。てっきり、音だけ別撮りなのかと思ったんだけど、実際にその場でしゃべってるんだよね。車に乗りながら。それを遠くから映してて、面白いなーって思って。

スズキ ははははは。

市沢 結局、70年代とか80年代の映像に行っちゃうんですよね。僕も『タモリ倶楽部』を観ますけど、あれも、何らかの追体験みたいな気がする。

千浦 「空耳アワード」や空耳アワーのベストがすぐ「おすすめ」に出てくんだよね。何度も観ちゃってるから。

一同 (笑) 

千浦 20歳ぐらいの頃、自分の好きなものについて、必死で情報収集してたじゃないですか。それが、今はめちゃめちゃ簡単にできる。すごく加速してるなあと思う一方、集中力は下がってる。

スズキ 千浦さんでもそう感じます?

千浦 感じますね。

市沢 それは、相当ですね。

スズキ だって千浦さんの集中力、日本のアベレージの何倍なんだ!?って僕らは思ってますよ。

千浦 そんなことない。ザルです、ザル。

スズキ でも、昔、梨元勝とかがやっていたことって、今「ニコニコ生放送」とか「ツイキャス」「ふわっち」とかで行われてることとそんなに変わらないかもしれない。「リア突」って言って、何かにアポなしで突撃していって警察沙汰になるみたいな生配信が、ガンガン上がってるし。かつてテレビは無茶苦茶してたけど、今はコンプライアンスでガチガチになってるから、場所がネットに移ってるだけで。初めて触れる人にとっては「新しい」んだろうけど、そうでない人には「新しい」わけではない気がします。

市沢 自分が若い頃に「新しい!」って思ったものって、実はそうだったのかなあ。

千浦 今の20代が40代になったら、今の僕らみたいに「ああ、それって昔のYouTubeみたいなもんだよね」っていう話をするんじゃないですか。

市沢 「新しいことを求めている」ということを、若い頃はあんまり言葉に出さなかった気がして。若い頃はむしろ、同時代を否定して、古いものに走ってた。平然と、何の躊躇もなく。

千浦 アテネとか法政で字幕のない16ミリフィルムの上映で『大砂塵』(1954)とか観てたんだ。

市沢 亀有名画座に曾根中生の特集を観に行ったりしてました。

スズキ それって僕とあんまり変わらないじゃないですか(笑)。僕も映画美学校の受講生だった頃、法政に行って、ジャン=クロード・ルソーの上映とか観てたし。当時のハリウッド映画は観てなかったですか。

市沢 あまのじゃくで、人が観てないものを観たいっていう人間だったので……

千浦 出た!サブカルクソ野郎! いや、もっと宮崎勤に近い感じか? あと、「おたく、最近何観た?」みたいな会話ばっかりする人!

スズキ 多分20代前半の子は何のことだかわからないですよ(笑)。

千浦 ひとつのことにハマってる奴はやばい、っていう認識がかつてあったんですよ。そういう人は犯罪でもするんじゃないかって思われてた時代があったんです。

市沢 昔持っててもよかったものが、今は持ってると逮捕されますからね。自分の中で一番大きかったのは、スコーピオンズの『ヴァージン・キラー』っていうアルバムですよ。ジャケット上に女の子の裸が描かれてて、今はもう画像加工をしないとネット上にすら出せないんですよね。(続く)