歴史は、繰り返す。今40代のおっさんたちが口にしていることは、きっとかつてのおっさんたちも口にしてきたのだろうし、今30代の人たちも、あと10年もしたら彼らと同じようなことを酒の肴にするのだろう。「おっさん」という種は、永久に不滅なのだ。

3人2


千浦 自分は70年代の半ば生まれで、80年代の記憶がふんだんにあるから、平成生まれとかほざいてる奴らに対して「俺らはほんとにワイルドな時代を生きてきたんだぜ」って言いたい。志村けんのバカ殿とかで、腰元役の女の人たちがおっぱいバンバン出してて、それが普通にテレビに流れてたんだから。

スズキ (笑)

市沢 80年代って、70年代と比べても野蛮だったじゃないですか。

千浦 浮かれてたね。

市沢 僕がよく見る80年代の衝撃映像は、パート1から4まであるんですけど。

スズキ (爆笑)

市沢 さっきの梨元勝とか、豊田商事事件とかを観てると、80年代の芸能リポーターの野蛮さが半端ないんですよ。人権とか、ないんだな!って思う。

スズキ YouTubeで映画を探ることはしないんですか。

市沢 しますよ。映画、どんどん上がるよね。

千浦 いろいろ観れるね。

スズキ スペイン語字幕がついた小津安二郎とか、平気で出てくる。北野武もほぼ上がってますよね。あと、今、YouTubeやVimeoでのオンライン試写とかあるじゃないですか。

千浦 ある。サンプルDVDを送るのが手間だったり、そのほうが費用がかかるからか、配給会社が限定公開のURLを、メールに貼り付けてくる。ここ2年くらいでVimeoとかむっちゃ観てる。

市沢 へええーー。

千浦 昔このビル(映画美学校のある渋谷円山町のキノハウス)の1階のカフェで僕がパソコンでDVDを観終えたところで、当時講師だった三宅隆太さんがいて、「千浦くん、今、『映画スタンド』使って観てた?」みたいなことを言うんですよ。『ジョジョの奇妙な冒険』における「スタンド」ね。いや、「スタンド」って言ったわけではないですけど、小さな画面で観た映画を、脳内でアンプリファイして大スクリーンに映し直して観る能力。「そうなんですよ、それ使わなきゃいけないんですよねー」「やっぱり、その能力持ってるんだ」みたいな話になりました。

一同 (笑)

千浦 妄想でそれぐらい没入して観るっていうことだけど、サイズ感に関しては訓練もある。映画館で働いていた時は、評を書く予定の映画のサンプルDVDを一度、誰もいない時に導入部だけスクリーンに映して観てましたね。人の顔がフルサイズで映った時とか、ロングで引いた時の映りやスケール感を、作り手はだいたい気にしていると思うけど、それを一応、正確に把握したいなと思ってるから。これは20年くらいやってる。

スズキ ホントに素晴らしい。こういう人だからこそ、映画を語った時に耳を傾けたいと思うんですよ。倍速とかで観ちゃダメですよ、市沢さん。

市沢 でもさ、倍速で観た方が面白い映画もあるじゃない(笑)。

スズキ それで言えば、黒沢清さんの『贖罪』を僕はWOWOWで観て、正直、あんまり乗れなかったんですよ。何に乗れなかったのか考えて、1.5倍速にして、音を消して、もう一度観たんです。そしたらすごく面白かった。

一同 へえー。

スズキ ひたすら画面構成と「動き=運動」を追っていたら、とてもいいサイレント映画だと思えたんですよ。加えて最近、間合いの長い芝居に耐えられなくなっていて。時代なのか、自分がせっかちになってるのか。YouTuberたちが作る、セリフ尻を細かくカットして喋る間を詰めまくった動画とか、Twitterの短い文章に触れる機会が多くなっているからか……逆に、デジタルになって誰でも簡単にムダに長回しも出来るようになったから、長尺のリズムもつかめなくなってきたのかなと思って、ちょっと不安で。間の善し悪しの把握がどうも……

千浦 わかるわかる。僕はこの間、今話題になっている、某『全員死刑』という映画を観に行ったんですけど。すごい、小ネタ大会でね。不良の実態とか、悪ぶった感じが楽しいんだけど、間が悪くて。それでなんか、痛感した。若い奴って、間が悪い。映画学校の学生が卒業制作の映画をなかなか切りたがらないみたいな。もしかしたらこっちがスレてきて、もっとしゃきしゃきした進行を求めすぎてるのかもしれないですけど。でもたぶん、小林勇貴監督にとっては、その間がすごく大事なんですよ。

IMG_0357
スズキ 小林監督のツイートが、リツイートだったり他の人のお気に入りになったりとかで、よく僕のタイムラインに出てくるんですけど、すごく聡明で頭のいい、戦略的に言葉を選んでる人だなって印象を受けます。不良っぽい、野卑なパワーだけで押し切るぜみたいなことは、全然感じないです。それでいて、もっとレベルの高い肝っ玉が座ってる感じもするし。人としての器が大きそうで凄いですよね。

千浦 いやあ、一度、講義に来てほしいですね。「不良映画術」。彼自身、地元の不良たちと映画を作るっていうところからスタートしている人だから、『全員死刑』に出てくる人たちってほんとにリアルで、いいんですよ。肉体労働の現場で、どんなに暑くても決して長袖を脱がない人とかほんとにいる。そういう知り合いがいない観客にとっては、すごく目新しい映画なんだと思う。小林さんの地元での産物を、都市部に輸出してきた感じの映画。

スズキ ああ、じゃあ、世に出始めた頃の「空族」の雰囲気に近いところがあるのか。

千浦 そうそう、富田克也さんとか相澤虎之助さんにも、そういう部分はあったと思う。でもね、あの2人の映画の間は、悪くないんですよ。富田氏はロマンとエモ、相澤氏は情報で、間が埋まってる。

スズキ 『全員死刑』は、実録映画なんですよね。

千浦 そうね。実際に起きた映画を元にしてる。

スズキ 芝居の間は? ナチュラルなんですか?

千浦 いや、ものすごくフィクショナル。戯画的に作ってある。

市沢 小林監督は、内藤(瑛亮)くんをリスペクトしているって聞いたんですけど。それまでの日本映画にあったのとは違うリズムでやっているのかもしれないですね。

千浦 話がずれるようで、つながってるとも思うんですけど、最近Twitterでよく見かける「古典知っとけよ問題」ってあるじゃないですか。

市沢 あー。「BRUTUS」でもこの間、特集してましたね。「今さら観てないなんて言えない映画」みたいな。

千浦 映画美学校では、古い映画は観ておけっていうスタンスがあるじゃないですか。でも忘れてはいけないのは、観たからといって、面白い映画が作れるようになるわけではない。……っていうことをね、ここで言っておきたい。

スズキ そうじゃなかったらこの学校、名監督しか輩出しないですよ(笑)。

市沢 たまに古典映画を観て、講師陣に語ってもらう機会があるんですけど、「ここはすごいけど、ここは古いよね」みたいなことを、高橋洋さんは普通に言うんですよ。「観た時は『すごい!』って思ったけど、今観ると、そうでもないね!」っていうことをちゃんと言う。名作と言われているものでも、古びていくものもあるんだなあと。

スズキ ちなみに今年、映画館で新作を観たんですか?

市沢 観ましたよー。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』。

千浦 見逃した……

——なぜ観たんですか。

市沢 廣木隆一さんが講義にいらしたので。

スズキ それ1本ですか。

千浦 それがそれだっていうのもすごいよねえ!

2人1
市沢 ああ、あと、『風に濡れた女』も観た。年明けに。

千浦 去年12月封切りの作品じゃないですか(笑)。もうさ、次のステージに上がった方がいいよ。仕事上の要請で観るくらいだったらもうその映画を劇場で観たとか観てないとかを超越して「いつも見ていますよ!」「あなたのことを、トータルに!」って監督に言えばいい。蓮實重彦さんと松本正道さんがこういう感じなんじゃないかと思うんだけど。

スズキ 「トータルに」ってすげえな(笑)。

千浦 僕はね、試写を観終わったときに感想とか、なるべく軽率に、軽挙妄動で言っちゃいたいんだよね。Twitterとかでね。それが関係者の人に「いいね」されたりすると、それで僕の自己顕示欲は満たされるので、そこからまたさらに書く機会があるなら単品の文章として何か意味のあることや、もっと何かを書きたい。あとは、話とびますけど、世のアニメ原理主義者に毒を吐きながら生きていきたいですね。

スズキ (爆笑)

市沢 千浦さんはやっぱり、アニメってダメなんですか。

千浦 ダメですねえ。

スズキ 何が、ダメなんですか。

千浦 わからない。画面の情報量が少ないからか、目がデカイとか手足がバカ長いみたいなあるモードで描かれてる登場人物が人間に見えないからか……まあ、アニメが好きな人がダメなのかな。アニメだけが好きな人が、ダメ。実際に撮影してるだけという程度の生々しさにも耐えられない繊細な、偏向した実写嫌いの方が苦手。

市沢 昔よりも、嫌い度は高まってる?

千浦 高まってます。そういう方に「クズ!」って言われたりする機会も増えてますから。

市沢 なんか、そういうことを書き込む人って、どこにいるんですかね。リアルに会ったことがない。

千浦 B’zファンと同じだね。すごいヒットしてるけど、どこにいるんだ!っていう。

市沢 松尾スズキさんが言ってましたね。「B’zのCDを持ってる奴に会ったことがない」と。

千浦 でもそういうツッコミにさえ、いろんな矢が飛んでくる世の中ですから。

市沢 監視社会が完成されてきたよね。昔のSFに描かれてたみたいな、上から押さえつけられてる監視社会じゃなくて、みんなが互いを監視しあってるっていう。

千浦 SNSって、他人にツッコミを入れやすいじゃないですか。警告的な何かを表明する人に対して、それをみんなで叩いて押さえ込むみたいな。「まだ何事も起きていない、これでいいんだ」っていうところに、前もってみんなが従おうとしているっていうさ。

スズキ もろ、そうですね。脚本を書く時もそうです。「どうせ通らないよ」ってなったら、所詮お仕事なのでムダな労力を掛けたくないからと、どんなに面白いネタだと思ってもそもそも書かなくなるみたいなんです。前もって危険回避するようになる。その極めつけが、コンプライアンスとスポンサー様とのお付き合い。某局のTVドラマでは、歩きながら携帯で話す、歩きスマホをする、っていう描写すらできないそうで。別の某局の事件モノのドラマでは、スポンサーに自動車会社が入っているから、交通事故やひき逃げ事件などは原則扱えないと教えを受けました。

千浦 アルトマンの『ロング・グッドバイ』で、エリオット・グールドが警察に捕まって、留置所に入ったら、二段ベッドの下にデビッド・キャラダインがいるのね。「なんで捕まった?」とかどうでもいい会話をするんだけど、キャラダインが「もう今は何を持ってても捕まる。そのうち、鼻を持ってるだけで捕まるよ」って言ってて。

一同 (笑)

千浦 それと同じようなことが起きてるね。なんでそこで、携帯の会社と車の会社は、歩きスマホしてる奴らがバンバン車にはねられるっていうドラマを製作して警鐘を鳴らさないのか!

市沢 それってさ、映画史的な話でいうと、ヘイズ・コード(※1934年から実施された、アメリカ映画の検閲制度)ってあったじゃないですか。「同じベッドに入っちゃダメ」とか「キスシーンはどこまで」とか。あれって完全に自主規制ですよね。映画界でやばいことが続けて起きたから、社会から映画界を守るために、自分たちでコードを決めた。

千浦 そこでよく言われるのは、そのコードをかいくぐるために、洗練された描写のラブ・ロマンスやスクリューボール・コメディが生まれたっていうことですよね。

市沢 そういうことに、今のドラマや映画界は、ならないんでしょうか。

スズキ あまりにも馬鹿げてるじゃないですか。子供に悪影響がある!とクレームが来るかもしれない、それを回避したいから「歩きスマホ」を画面に映せないなんて。その中で作り手の皆さんは試行錯誤しておられるんだと思うんですけど、そんなくだらないゴミみたいなことにあなたたちの才能や能力を使わなくていいです!って言いたい。

市沢 ああーー。逆に言うと、どんどん規制されていくと、それをやっただけで「表現」として見られるってことですかね。歩きスマホを映しただけで、……

千浦 「おい……歩きスマホしてるよ!ヤベぇ!」とか、「乳首も見せて全裸でラブシーンしてる!こんなの観ただけで妊娠しちゃうよ!」とか。

一同 (笑)

千浦 逆に、歩きスマホしようとするたびに必ず邪魔が入り続けるというギャグだけを延々とやるとか。

一同 (爆笑)
(続く)