高橋洋の脚本・監督による最新作『霊的ボリシェヴィキ』。その制作にスタッフとして関わった面々に話を聞いた。「プロの制作現場でスタッフとして機能する」ことを、身を張って叩き込まれるフィクション高等科「コラボレーション実習」の一環。「Jホラー」の代表格である高橋洋の現場で、彼らは何を学んだのだろうか。

小杉幹太 F19高等科所属。『霊的ボリシェヴィキ』照明部チーフ。ポスプロではサウンドチームで整音やSE作りをしました。脚本開発にも関わり、脚本チームにも参加。

齋藤成郎 映画美学校19期高等科所属。『霊的ボリシェヴィキ』では撮影部アシスタントのファーストを担当。

西牟田和子 映画美学校19期高等科所属。初等科修了後、映像制作会社に転職。霊的ボリシェヴィキでは美術部チーフを担当。

藤本英志朗 『霊的ボリシェヴィキ』制作部。脚本開発のところで主に関わり、今作の予算管理をしたり、現場ではメイキングを撮ったりなどもしてました。

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——まずは、どんなところから制作が始まっていったんですか。

小杉 高等科に入る前、カリキュラムについてのガイダンスがあったんですね。そこで高橋さんが「ゴースト・ストーリーをやります!」と。ひとつの大きな、密室的な空間を使って、そこで展開する物語をやると。それが最初でしたね。みんなそれぞれ企画やプロットを書いて持ち寄って、それを元に会議が行われ、会議で決まった方向性を元にまた書いたものを持ち寄る。それを繰り返して最終的に永澤由斗くんの脚本に決まって、そこから「脚本チーム」が作られて、僕はそこに入りました。

——高橋さんが出してきた作品というわけではなかった?

藤本 高橋さんが出してきました。過去に映画会社に出したけど制作に至らなかったホンや企画書を最終的には3つぐらい読んで、それらをベースに新しく組み立てていったという感じです。

小杉 その、最初の3つのうちのひとつが『霊的ボリシェヴィキ』だったんだよね。

藤本 これ、やべータイトルだなあ、って脚本会議で一度は話題になったけれど、僕らはずっと『ばけもの』っていう候補作を元に今作の脚本を練っていたんです。スタッフで仮の初稿を出した時も、『霊的ボリシェヴィキ』というタイトルがつく気配はまるでなかったんだけど、高橋さんが最後の推敲をした段階で、このタイトルと「ボリシェヴィキ党歌」が加わりました。きっと、最初から入れる意図があったんだと思うんですけど(笑)。

——その時点で、登場人物が輪になって話す展開でしたか?

藤本 それはスタートの時点で決まってました。限られた空間の中で、百物語みたいなことをやる。そこは変わってないですね。

小杉 登場人物が輪になって、それぞれのエピソードを話すんですけど、「やりたいのは人間ドラマだ」って高橋さんは言うわけです。語られるのは、まったく関連性のない個別のストーリーだから、語られるエピソード以外のところで、登場人物の関係性を作っていかなきゃいけない。そこに苦労しましたね。

藤本 まず主人公の『由紀子』がどういう人なのかを会議を重ねて決めました。そもそも今作は、2〜30分の予定だったんですよ。だから、20分の映画を作るなら、20個の出来事がないと成り立たないっていうので、僕たちは20個の出来事を挙げていったんです。

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小杉 降霊会をやる、っていうところは決まってたんですね。僕はホラーはよくわからないのでSFに寄せました。科学者がすでに一つの霊を特殊な機械に封じ込めていて、その霊とコンタクトをとろうとするっていう設定を考えました。これ、結構、高橋さんにヒットしたんですよね。でもその後の脚本会議では取り上げてもらえなかった(笑)。

藤本 僕ら19期の人たちって、好きな映画のジャンルが違うので、もらったお題に対して、自分の好きなジャンルに引き寄せて書こうとするんです。例えば、青春映画が好きな一人は「テラスハウス」みたいな設定で、若い男女が同居生活していて、恋愛なんかも絡めながら、怪奇現象が起こる!っていうのを書いてきてて(笑)。あまりに収拾がつかないので、高橋さんが、かつての企画を持ってきたり、物語上の縛りをより多く与えてきたりしました。

小杉 高橋さんの中にはヴィジョンがあるから、アイデアがそこからかけ離れてしまうと、案外冷たいんですよね。

一同 (笑)

小杉 アイデアを出し合う段階で誰かが「これ、主人公を男にすれば、全部丸く収まりませんか?」って言った瞬間、高橋さんが、まっったく無視したんですよ(笑)。

藤本 あーそれ、覚えてる。

小杉 しばらく、しーーーん、ってなって、「……じゃ、次」って。

藤本 やりましたね、アイデア出し。地下のミニスタジオで、それこそみんなで輪になって座って、ひとつずつ、自分の考えを言っていく。高橋さんが「面白いな」と思ったらそこから膨らませてみて、そうでないものは聞いてない(笑)。

小杉 そこでだんだん人が減っていったんだよね……

藤本 そう。残ったのは、映画で「脚本」としてクレジットされてる人たちだけ。そのメンバーで20個の出来事からなるプロットを考えて、同じプロットの元、それぞれの形で脚本にしていきましょう。っていう流れだったんですね。それで、永澤くんの書いたものが選ばれて、高橋さんの推敲により、ボリシェヴィキ要素が加えられて初稿ができました。

小杉 改めて考えると、20個の出来事がある上に、それぞれの長い語りが入るわけだから、20分で収まるはずがないんですよ(笑)。サウンドチームのグループLINEで「どうやら70分を超えるらしい」っていう第一報が入った時の、みんなの動揺がすごかった。音声の臼井(勝)さんとか「やばいよ!!」って(笑)。

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——西牟田さんは、その頃?

西牟田 私は美術部だったので、脚本はまったくやらなかったですね。そもそもホラーっていうものに、全然興味がなかったので。途中で抜けた人たちが言ってたのは「あれは『高橋洋クイズ』だ」と。みんなで、高橋さんの中にあるものを、当てにいくクイズだって(笑)。もちろん、採用されたアイデアもあったと思うんですけど。

藤本 あったんじゃないかな。高橋さんだけだと、やっぱり濃すぎるから。みんなで中和していった感じがする……でもそう考えると、単に僕たちが「普通の映画」に近づけちゃっただけなのかな……。

——私は、画面上は「ただ人がしゃべってるだけ」な展開に驚きました。大切なことはすべて、観客の脳内で起こる。

小杉 語られることの再現映像を入れるのか入れないのかっていう議論はありましたね。

藤本 あと、いくつか映画を観たんですよ。最初に観たのはベルイマンの『鏡の中にある如く』っていう映画でしたね。最後に扉がうわあっと開くんですけど、高橋さんがそれを僕らに見せて「僕がやりたいギミックはこのレベルです!」って。あと、高橋さんと撮影の山田達也さんの案で、「こういう画作りがしたい」ということで観たのが、ポランスキーの『おとなのけんか』。密室の中で、4人の大人が会話し合うんです。

西牟田 あれは面白いと思ったな。会話だけで成立するんだ!って。語りだけで映画を作るなんて、無理でしょ、観てられないでしょって思ったけど、その映画を観たら「できるんだなあ」って思いましたね。

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藤本 小川さんは『霊的ボリシェヴィキ』、観たんですか。

——DVDで拝見しました。私は、落語や演劇を観るのと似た筋肉を使った気がします。そういう筋肉がない人が観ると、「ただしゃべってるだけじゃん」ってなっちゃうのかも。

藤本 「演劇的想像力」っていうのは、よくおっしゃってましたね。企画開発にあたり、高橋さんから最初に渡された本があって、……

小杉 ラシーヌの『ブリタニキュス ベレニス』と、『ウーマン・イン・ブラック』と、谷崎潤一郎の『或る少年の怯れ』。

藤本 「演劇的想像力を映画でやる」というのは、ただ戯曲を映像化すればいいってことじゃないっていう話をされましたね。

小杉 ひとつの空間で、違う次元や時間のことを語ることで、その空間がそれまでとは違った空間になっていくという。

藤本 高橋さん的にはそれ、達成されたのかな。聞いてみたいですね。

——高橋さんの推敲を経て『霊的ボリシェヴィキ』が出現した時は、どう思われましたか。

藤本 びっくりしました。たぶん高橋さんの中では最初からそういう構想の映画だったんだろうけど、いきなりそう言ったらみんな引いちゃうから、僕たちには物語的なことに専念させて、できあがった箱に高橋さんが本当にやりたかったことを当てはめたんだと思う。うわあ! やられた! って思いました。

小杉 あんなに大きなレーニンの肖像が掲げられるとは思わなかったね。

西牟田 思わなかった。美術部として、「何やってるんだろう?」って思いました(笑)。レーニンとスターリンの顔を拡大印刷しながら、「どんな世界になっちゃうの??」って思った。

一同 (笑)

西牟田 美術部、楽なのかなあって思って入ったんですよ。そしたら死ぬほど大変だった。

藤本 独特なモノばっかりだからね。

西牟田 巨大鍋にいっぱいの血とか、装着したら血が吸い上げられていく首輪とか(笑)。まったく想像がつかない、「これ、どうやるの?」っていうことばかりが書いてあるホン。ぞっとしますよね。

藤本 木の人形も大変だったらしいね。

西牟田 公園かどこかに、探しに行ったんですよね。ちょうど子供に見える形をした木を。そりゃ、ないですよね(笑)。結局、造形ができる知り合いにお願いしたんですけど。

小杉 プロットの段階では「屍蝋化した少女」だったんだよね。

西牟田 無理だよー(笑)。あと、当初は、みんなが輪になってる真ん中で、ヒロインと思われる人形が燃えて、それをヒロインが浮遊しながら見てる、みたいな描写があったんですよ。「ここにあることの全部、どうするの??」っていう(笑)。高橋さんは、できないことを納得しないとあきらめられないから、山田さんにわざわざ、ミニスタジオでイントレを組んでもらって、地上で人形が燃えているテイにして、カメラマンが上に登って、身を乗り出して、「これは危険。無理ですね」っていうことを高橋さんが納得して、やっと稿からなくなったという。

藤本 高橋さん、奥さんを使って練習してたことがあったよね。

西牟田 「毛布にくるまれた死体」のイメージについて、毛布にくるまれた奥さんの写真が送られてきたんですよ。「こんな感じです」って。

——素敵なご夫婦ですね。

西牟田 ほんとうですね(笑)!

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藤本 今回、そもそもの制作が授業の一環という建前だったので、限られた予算の中でいろんな方たちに、無料でご協力いただいたことがたくさんあって。それって、すごく大変なことなんだなっていうのをひしひしと感じました。

西牟田 例えば、どんなこと?

藤本 ご好意で協力してもらっているので、僕らは頭を下げるしかないんですよ。フェアな関係というのは築けない。だから先方が言うことは絶対だし、僕らからは何も言えない。最初からちゃんとプロとしてやりとりすることの大切さを知りましたね。

西牟田 今回、この映画に関しては、映画美学校のコラボ作品だということは、表にあまり出してないんですよ。

藤本 そう。「ガクセーが作った映画なんでしょ?」って思われたくないのかもしれない。

西牟田 たしかに、普通ならそう思うよね。

藤本 だから公開からすこし日が経って「実はあれ、学生と作った映画なんだよね」って言えればいいんじゃないかと僕も思ってるんです。そこで「え、学生が!?」ってなるのか、「あーー、学生ね……」ってなるのかはわからないけど(笑)。

——撮影に至るまでの日々はどんなふうでしたか。

藤本 9月に高等科の授業が始まって、企画を出しが始まって、そこから脚本会議が何度も行われて、初稿ができたのが12月後半ぐらいだったかな。オーディションも同時期に走ってて、ものすごい人が集まったんですよ。

西牟田 らしいね。

小杉 最初は伊藤洋三郎さんが、あの会合の主催者側の役柄だったんだよね。

西牟田 あー。それもありえるなあ。

小杉 ひとりキャストを置き換えると、登場人物同士の力関係とかポジショニングが、全然変わってくるんですよね。それが面白かった。プロットの段階と、脚本の段階と、キャスティングの段階によって、作品って本当に変わるから。

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藤本 伊藤さんが三田役をやったことで、冒頭が伊藤さんの語りから始まるじゃないですか。それが、めっちゃかっこいいんです。

西牟田 確かに。「この映画、観れる!」って思ったのは伊藤さんのシーンだった。

藤本 そう。伊藤さんが最初だから、みんな、その次以降の人の話も聞ける耳になるというか。男の語りから始まるあの入りは「『ゴッドファーザー』がやりたい」、と高橋さんが脚本会議で言っていた。ちょっと納得するでしょ。

——韓さんはどうでしたか。

藤本 韓さんは撮影に入る前の段階で、リハーサルを高橋さんと1対1で重ねていたんですね。それが平日のお昼とかだったので、出られる受講生が2人ぐらいしかいなくて。その少人数で、「ボリシェヴィキ党歌」の練習をしたりとか、語りの練習をしたりとかして。僕はメイキングを撮ってたんですけど、やばいんですよ。高橋さんがノリノリで「ボリシェヴィキ党歌」の指揮をするっていう動画が、今、スマホに入ってるんですけど。

(難しい歌に全力で臨む韓さんと、マエストロのように身体全体で拍子を取る高橋さんの動画をみんなで見ていると、電車遅延に巻き込まれた齋藤くんが到着、着席)

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——齋藤くんは何係だったんですか。

齋藤 僕は撮影部だったので、主な動きは現場に入ってからでしたね。来る途中、ちょっと思い返そうとしてみたんですけど、結構、記憶が薄れてて。

藤本 でも、話しながら思い出してくるよ。脚本段階のこととか、今ここで思い出した。この脚本を書くために毎晩ホラーを観るようにしてたら、怖い夢を見るようになって。それがなんだかうれしくて、目が覚めるたびに夢で見た怖い出来事をメモってました。

一同 (笑)

西牟田 真面目だなあ!

藤本 真面目だね!(笑) 大学の卒論を書きつつ、ホラーのことも考えつつ。

——皆さんは他にも何かと掛け持ちされてましたか。

齋藤 僕は家庭教師とか、日雇いの仕事とか。拘束される時間という意味では、初等科の方がキツキツでしたね。

藤本 高等科は、油断してると役目がなくなって、学校に来なくなっちゃうんですよ。メンバーの半分以上は、定職に就いていたので。

西牟田 私は今、映像の会社で働いているので、平日に行われる何かについてはあまり行けなかったんですけど、高橋さんが、平日だろうとそうでなかろうと、24時間稼働してるので。

一同 (笑)

西牟田 平日の夜に「美術部、どうなってますか?」って矢のようなメールが来て、深夜の2時ぐらいに「美術部、リアクションを!」っていうメールが来るんです。

一同 (爆笑)

西牟田 すごいことだと思ったんです。普通に働きながら、高橋さんと一緒に映画を作るというのは、不可能かもしれないって思って。

藤本 高橋さんは、プロフェッショナルとして、1本の作品を作るという気概でいらしたので。

西牟田 あの根気を、ずっと持っていられるってすごくない? 毎日だよ。休んでる空気がまるでなかった。いつ寝てるんだろう、って不思議で不思議で。

藤本 それがポスプロまで続いたからね。

小杉 何なら、今も続いてるよ。

西牟田 そう。広報でばんばん動いてる。

藤本 しかもあの時期は『霊的ボリシェヴィキ』を書きつつ、『予兆 散歩する侵略者』も同時進行で書いてたわけでしょう。

小杉 一度脚本会議で、ヒロインの名前を『予兆〜』のヒロインと取り違えたことがあったね。

藤本 そうそう。突然「悦子」って言い出した(笑)。

——撮影部は、どんな過程を経てきましたか。

齋藤 おもに、山田達也さんにくっついていましたね。色々教えてもらいました。

西牟田 「京大で何勉強してたんだ!」って怒られた撮影部のスタッフもいたみたいだね(笑)

藤本 ちょっと、途中つらそうで心配したんですけど。

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齋藤 いい話があるんだけどね。撮影初日が終わった後に、撮影部3人のうちの1人が「お腹が痛い」「俺、明日、来れないかもしれない」って言い出して。わかった、大丈夫だから、身体を大事にしろって言いながら、内心、「休まれるとキツいな……」って思ってたんです。そしたら翌朝、そいつが現場に、真っっっ白な顔をして、来ていたんですよ。それを見て、いいなって思った。「みんな頑張ってるな……!」って。

西牟田 山田さんは準備の段階から、一番現実が見えてる人だったよね。

藤本 毎年やってるからね。僕らにできる範囲っていうのを、知り尽くしていた。

齋藤 高橋さんの、カット割りの説明の理解度がすごかったんですよ。

一同 (笑)

齋藤 ほんとに、わけがわからないんですよ。高橋さんが、わーーーっと語るカット割りについて、みんな、ちんぷんかんぷんだったんですけど、それを一発で理解していたのが、山田さんと中瀬慧さん。

小杉 高橋さんは山田さんのことを「あの人、レール敷きたがるからなあ……」って言ってて、山田さんは高橋さんのことを、……

藤本 「カメラを絶対動かしたがらない人だ」って言ってて(笑)。だから「仲良し」というのとは違うと思うけど、

西牟田 パートナーですよね。仕事においての。何だかんだ言いながら、最終的にはやってあげるんですよね、山田さん。

——怪奇現象が起きたりはしたんですか。

西牟田 具体的に何かが起きたわけじゃないけど、最初の本読みの時は怖かったです。女子がいなくて、私がヒロイン役を読んだんですけど、すごく変な感じがした。「この脚本、ヤバいぞ」!って。

藤本 「ヤバいぞ」感は撮影の時もあった。夜のシーンで、青白い照明をつけてたんですけど、建物を外から見ると異様なんですよ(笑)。

西牟田 近隣の方には絶対「ヤバい集団」って思われてたと思う(笑)。

小杉 シアンっていうフィルターを使ってたんです。僕は照明部だったんですけど、これ以降、僕らの中でシアンが妙に流行って(笑)。

藤本 僕は今作の制作費を管理してたんですけど、電気代はかなり高かったです。電気工事からしないといけないロケ地だったので(笑)。

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——音の苦労が、大きかったのではないかと推察するのですが。

小杉 最初に高橋さんが、「こういう音がほしい」っていうリストを出してきたんですね。それが、これなんですけど。

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小杉 「大気に漂う霊気を、集音マイクが吸収しているイメージ」って。

一同 (笑)

小杉 「大気に漂う霊気」ではないんですよ。「それを、集音マイクが吸収している音」なんです。

一同 (爆笑)

齋藤 「ズーンズーン」もあるね。

西牟田 どうやって作ったの?

小杉 イントレを揺らしたんだよ、確か。それを加工したと思う。

藤本 「チューブを血が流れる音」って何(笑)。

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小杉 そのへんにあるものを、いろいろ試しました。ドロッとしたものの方がいいだろうということで、水で薄めたマヨネーズとか。洗剤を入れて泡を出したりとか。結局、臼井さんのアドバイスで、トイレットペーパーを水に溶かして、それを使いました。今、映画美学校のトイレの流しに「変なものを流さないように」って貼り紙がしてあるのは、僕がそういう諸々のモノが混ざった液体を流して詰まらせたせいです。本当に申し訳ない。

齋藤 あそこ、詰まりがちだよね。みんながいろんなものを流すから(笑)。

小杉 今日は録音部がいないのが残念だけど、「光線の音」も大変だったみたい。

藤本 光、って……

西牟田 音がするわけがない(笑)。

小杉 もっと言うと、「湯気の音」も(笑)。

藤本 「人が倒れる音」も苦労してたね。スタッフが何度も何度も倒れて、「もう一回」「もう一回!」って。

小杉 高橋さんは、どこがどうダメなのかを言わないんですよ。「……これ違う」「……これも違う」「ん、これはいい」「これは違う」っていう感じ。

藤本 「高橋洋クイズ」だ(笑)。

小杉 「『ギィー』は、もっと、『ギィィーーー!』だよ。これじゃ『ギィーー』だ」って。

一同 (爆笑)

小杉 ある録音部のスタッフは、持っていった音を高橋さんに延々ダメ出しされ続ける夢を何度も見たそうです。

西牟田 すごいなあ、高橋さん。脚本を書きながら、音の細部まできっちり思い描いてるってすごくない?

小杉 あと、人を殴る音。臼井さんがずっと言ってたのは、使用する素材の材質が重要なんだと。でも人の頭を殴るわけにはいかないから(笑)、ボーリングの球を頭蓋骨に見立てて、皮膚と髪の代わりに人工芝を巻いて、それを鉄パイプで殴りました。

齋藤 あ、別の現場でも同じことやってた。あのアイデアは、そこから来てたのか……!

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西牟田 あと、クライマックスのところで、太陽の光がすごくうまいことになったじゃない。

藤本 ラストシーンね。最後の一人が倒れた3秒後ぐらいに、一気に陽が落ちて、空間全体が暗くなった。そこにいた人と同時にあの建物も終わりを迎えたみたいに。

齋藤 あのときの現場の感じは面白かった。いろんなものと、一体化した感覚。

西牟田 奇跡だと思った。怪奇現象ではないけど、そういう不思議が起こりましたね、この映画は。

——その時、高橋さんは?

藤本 高橋さんは基本、にやにやしながら「お、いいですねえ」とだけ言うことが多いですね。……久しぶりに観たくなってきたな、『霊的ボリシェヴィキ』。

西牟田 観ようよ。評判も、上々だよ。

齋藤 そうなんだ。

西牟田 私は映像系の職場にいるんだけど、わりと話題にしてくれてる。私が関わったからというのではなくて。「あれは観るしかないっしょ!」って、結構言ってくれてて。

藤本 いい枠だと思うんですよ。『霊的ボリシェヴィキ』っていう70分サイズのホラー映画が、ユーロスペースのレイトショーで流れるって、ちょうどよくない?

小杉 青山真治さんがTwitterで絶賛されてたよね。

藤本 黒沢清さんも。クラウドファンディングも、最初の想定以上に集まって。

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——皆さんは、完成品を最初に観たとき、どうでしたか。

藤本 僕は、西牟田さんと違って、素直に面白い!とは言えなかった。脚本段階では、これは行けるぞという感覚だったんだけど。本当の最初からずっとつきあってきた作品だし、この映画と高橋さんのことを、とても時間をかけて少しずつ分かろうと努力した人間だったので、冷静に判断ができませんでした。だから、お客さんに見てもらうのは怖かった。ほんとは。

西牟田 分かれるよね。「面白い!」って言う人と、「……?」って言う人と。スタッフも、二分された感じがある。

小杉 関わりすぎてるっていうのもあるかもしれないね。

西牟田 そうかー。私は超面白いと思ったなー。音がすごい!って思ったんですよね。音楽もすごいし、効果音もすごかった。これは果たして面白いんだろうかと思っていた画が、音が入るとこんなに面白くなるのか!っていう衝撃。

藤本 一番わからなかったのは、「これ、怖いのかな?」っていうこと。登場人物が語る話を、僕らはもう聞きすぎているから。

西牟田 ああ。「怖いかどうか」は確かにわからない。

藤本 小川さんはどうでしたか。怖かったですか?

——私は、話す人を見るのが好きなので、普通に機嫌よく観ましたし、伊藤洋三郎さんがひとりでトイレに行った時点で「ああ、彼はここで取り殺されるのだ」と思っていたので、そうじゃなくって「あれ?」って思いました。

齋藤 ……確かに。確かに、死ぬフラグだ!

小杉 確かにホラーって、単独行動した奴が殺されますよね(笑)。

藤本 ものすごく、適切な指摘ですね。

齋藤 全っ然そんなこと思わなかった(笑)!

西牟田 うん。ああいうもんだと思ってた。

齋藤 俺、あれも怖いかどうかよくわからないんだ。「コティングリー」の妖精写真。

西牟田 私、何度か高橋さんに直された記憶がある。「コティングレー」なんだか「コンティングレー」なんだか。

——確かに、作ることに密接していると、見えなくなるものがあるのかもしれませんね。

小杉 特にホラーは、「何が起きるかわからない」ことが怖さにつながるじゃないですか。僕らは、何が起きるか知り尽くしているので(笑)。

藤本 語りも、初見だったら想像しながら耳を傾けるのかもしれないけれど、制作期間は何度も読んで聞いているうちにだんだん内容が入ってこなくなっていた。だから久しぶりに観るのが少し楽しみ。

齋藤 僕、試写を観れてないんですよ。

西牟田 え! 最高だよ!!?

藤本 僕も観れてない。

西牟田 行こう、みんなで! スクリーンで観た方がいいよ!

——スクリーンで観るとして、楽しみなのはどんなあたりですか?

西牟田 「俺のあのカットが!」とか、言っとくといいと思うよ(笑)。

齋藤 僕は撮影部だったんですけど、ワンカットだけ、撮らせてもらったカットがあるんです。でも……観たくねーなあ!

一同 (笑)

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齋藤 めっっちゃめちゃ緊張したんですよ。女性の裸足を撮るだけなのに、それがうまくいかなくて。床は冷たいから、早く切り上げたいのに、「すみません、もう一回お願いします!!」って何度も何度も。思い出すだけで変な汗が出ます。

小杉 でもその話を、山田さんはあとで大いに語ってたよ。「あいつは頑張った!」「あれにOKを出したのは俺だから!」って。

藤本 いいなあ。撮影部や照明部は、上がいるから。僕ら制作部は、そういうのがなかった。

小杉 照明部的に言うと、チラシに使われている俯瞰の画は、昼間に見えますが夜に撮影しているんです。強いライトを使って昼の光を再現しているんです。

藤本 いいなあ! 「部」として観てほしいところが言えるの、いいなあ!

——最後に何か、皆さんならではのコメントがほしいです。この映画を、じかに体験した皆さんの言葉が。

藤本 低予算の、限られた状況の中で、いかに一般の観客を振り向かせることができるかというのが、今回の「コラボ」のスタート地点だったんですね。だから実際にこの映画が、お客さんにどんな体験を提供できるのか、感想を聞くのは怖いですが、今はとても気になります。

小杉 タイトルは『霊的ボリシェヴィキ』で良かったのかな?

西牟田 名前で勝ってるって聞くよ。「『霊的ボリシェヴィキ』って、観るしかなくない??」って。

齋藤 画面の中に、たぶんアラがいっぱいあると思うんですよ。他の映画では、あまり見えないようなアラが。

西牟田 同じシーンなのに服が変わってたり。

藤本 高橋さんに伝えたら「ジョン・フォードでもそういうことはある」って全く気にしてなかった。でも、ジョン・フォードは白黒なんですよね(笑)。

齋藤 撮影部としても、ミスが本当に多いんです。もうフォーカスが全然あってないシーンがあったり。もちろんミスなわけですから映画を見る上でノイズにしかならないはずなんですけど、それすらも良しとしちゃうみたいな。良くはないんですけどね。高橋さんと山田さんの懐のでかさを感じました。

——「映画秘宝」さんの編集者の方が、「オーブ」が映り込んでいたことに興奮されていました。

一同 「オーブ」?

西牟田 いま検索してる……「レンズ表面のホコリが太陽光や照明光に反射して起こる現象」。

藤本 たぶん、高橋さんは、そういう現象をモノにしちゃう人なんですよ。

西牟田 そう。引き寄せちゃう。

藤本 だから失敗も、失敗じゃなくなるんですよね。何でも自分のものにしちゃうっていうのが凄い。

西牟田 確かに、その強さをすごく感じる。美術部も、少ない予算からものすごくたくさんのものを作り出さなきゃいけなくて、どうしてもチープな見た目になっちゃうんですよ。でも、高橋さんは「それでかまわない」って言うんですよね。「それが、映画だから!」って。

藤本 割り切るところは割り切るし、それを自分の作品のテイストに引き込んで合わせていく。自主映画の先輩として、すげーなっていつも思う。

西牟田 そう。だから、自主映画を撮る人に観てほしいですよね。勇気をもらえる気がします。「自分は細かいことにこだわってたんだな!」って。(2018/01/27)