たぶん、集まる機会はもうあまりない。1年間、濃密に向き合い、共にひとつの舞台を作った仲間たち。アクターズ・コース講師の兵藤公美も立ち去りがたく、急遽飛び入り参加となったこの日の総仕上げ座談会。数日前に修了公演『石のような水』を終えたばかりで、まだ余韻冷めやらぬ彼らに、あの時、そして今、感じたことをつぶさに聞いた。
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登壇:市川真也 大石恵美 大園亜香里 大谷ひかる 鬼松功 
   佐藤陽音 しらみず圭 津和孝行 長田修一 横田僚平(金子紗里 欠席)
  (以上アクターズ・コース第4期)


 

――楽日に、何やら大変だったそうですね。

 

兵藤 大変でした! 客席で観ていた関係者がみんな気を失いかけました(笑)。

 

津和 冒頭の、ピクニックのシーンで、急に僕のセリフが出てこなくなったんです。なんか、クラッと来て。「……。」ってなっちゃって。

 

兵藤 すごいスケジュールだったからね。昼夜続けてやるべき作品では決してない(※上演時間は2時間45分)。でも、そこからのみんなの集中力がすごかった。本番中に予期せぬことが起きると、出演者同士がギュッとまとまるんですよね。

 

横田 体感時間がすごく長かったですよ。40秒ぐらいに感じた。それで、僕がせりふにないことを言って。

 

市川 横ちゃんがアシストして、大谷さんがゴールを決めた感じでした。

 

鬼松 うん。あれはすごかった。

 

――チーム力。

 

兵藤 そう。チーム感をすごく感じた。

 

――そのチーム力が、どうやって生まれていったのかを、今日は聞きたいと思っています。

 

津和 それはもう、いっちー(市川真也)くんの協調性によるところがとても大きいです。

 

鬼松 いっちーさんがいるのと、いないのとでは、稽古の出来とか温度とかが全然違った。

 

市川 この作品に向けての稽古が始まったのは去年末だったんですけど、演出の松井(周)さんが入られて本格的な追い上げに入るまで、長い自主稽古期間があったんですよ。指揮を執る人がいないから、みんながあっちゃこっちゃ向いてしまったらよくないと思ったので、「はい、やるよー!」っていう感じで。

 

横田 身体のウォーミングアップとかね。発声とか。

 

市川 自分が、音楽の専門学校で教えてもらったこととか、今まで出演してきた他劇団で学んできたことの中から、役に立ちそうなことを言ったり、みんなにも教えてもらったり。一番激論を交わしたのは、各シーンをどこまで作るかということ。僕らの自主稽古の成果を、松井さんにビデオで送ることになっていたので、「ある程度完成されたものを送りたい」派と、「何らかのダメ出しが来ても対応できるくらいの余白を残しておいた方がいい」派の激論が交わされて。

 

大石 いや、あれは確か、一度ビデオを送った後に、残りの稽古をどうするかっていう話になったんです。で、「とりあえずせりふを入れておくぐらいにとどめておいたほうがいいんじゃないか」派と、「いや、残りも映像と同じように作り込んだ方がいいんじゃないか」派に分かれたんです。

 

――それぞれ、いろんなキャリアを経て集まっているから、ものの見方もいろいろでしょうね。

 

大谷 でも、そういう感じはあんまりなかったですね。

 

市川 うん、「バラバラ感」はなかった。すでに団結しているからこそ、何でも言える状態。

 

しらみず それでいて、各々が自分のペースで考えて稽古できるっていう距離感でしたね。各々がそれぞれの場所で深めたものを持ち寄るっていう感じ。

 

横田 松井さん主宰の「サンプル」の稽古をみんなで見学してから、ちょっとギアが変わった気がしますね。それまでずっとミニスタジオっていう、ある意味慣れていて閉じられた空間で稽古をしてきたから、もっと声を大きく、はっきりと演じなきゃダメかもしれないという話を、みんなで「さくら水産」でしました。

 

しらみず でもその結果、松井さんが稽古に入ってみたら、それまでのことは全然足りてなかったんだなあって痛感しました。

 

横田 僕らの思い込みで芝居を作っていた、ということですね。松井さんに言われれば「周りへの反応が全然できていない」と。周りのものに反応せずに自分だけで芝居しちゃってるし、あと、「そんなに重くないから」っていうこともよく言われましたね。「そこまで思い込まないで」「神妙になりすぎ」って。

 

大石 私はずっと「声が小さい」「全部単調すぎる」って言われていたんですけど、全く自覚がなかったんですよ。でも、一回それを思いきり崩してみてから、声が出るようになって、「単調だ」とも言われなくなったんです。ただ、なぜそうなったのかがわからない。私はたぶん一番自主稽古してた気がするんですけど(笑)、その結果、声が小さく単調になってたという残念な事態で。

 

横田 自分のクセってあるじゃないですか。しゃべり方も、動き方も。それを自分で把握してコントロールできる状態で、稽古に入るべきだったんですよね。

 

大谷 俳優のクセを徹底的に直してから、その次の役作りを考えるっていう松井さんのやり方が、私は本当に新鮮でした。俳優という存在について、松井さんはとても大きく、大切に考えておられるんだなあと思いましたね。本当に「俳優ありき」で作っているんだなと。俳優を成長させるのだ、という強い思いを、松井さんのひと言ひと言から感じていました。

 

――松井さんはご自身も俳優でおられるので、自分の実感も込みで演出されていましたね。

 

大谷 そうなんですよね。でもそれと同じくらい思っていたことがひとつあって。みんなと1年間一緒にやってきているから、「この人のここが最高!」っていうところがそれぞれにあるんですね。でも、稽古場ではそれが「クセ」として修正されていく。それらをいったん、全部取り除いてみるところから始まるんですよ。うわあ、わかるけど、そこが愛すべきところなんだよなあ……!っていう勝手な葛藤がありました。……ということを、稽古場でもっと発言すればよかったのかなって、今はちょっと思っています。

 

兵藤 例えば市民劇で演技経験のない人と芝居を作ることになったとして、演出家は演出次第でその人をどうとでも見せることができるんですよ。その人の面白さを活かして、面白く見せることができる。でもそれは「演技指導」ではないんですよね。その場限りがうまくいっても、俳優の実力にはつながらない。松井は演出しながら「演技指導」の観点でガンガン行っていたので、本番を観ながら「みんな、いいな」って思いました。私は全ステージを観たんですけど、本番期間中にもどんどん変わっていくのがわかるんですよ。松井がまずゼロに戻すところから根気よく取り組んでいたからこそ、気づけた発見というのがいっぱいあるんだろうなと思った。いいな、うらやましいな、私も出たいなあって、ちょっと嫉妬してました(笑)。……というところで、そろそろ私は出なきゃいけないんですが。

 

一同 えー!

 

兵藤 今はまさに、みんなが何かに気がついた、感覚が開いたところなんだよね。ここからの筋トレが、実は大事で。そういうことができる場作りを、私たち講師陣も考えているところなので、また一緒にお芝居ができたらいいなと思っています。

 

一同 ありがとうございました!(兵藤去る)

 

――いいですね。「先生」というより「俳優同士」としての言葉でしたね。

 

横田 皆さん現役バリバリの「名優」ですからね。

 

しらみず 皆さん、見る目がすごいんですよ。言われることにいちいち心当たりがあるし、それを変えたら「あ、変わった!」っていう感覚がある。

 

津和 山内(健司)さんとか、すごいんですよ。今ここで起きたことを全部細分化して検分してるみたい。あの視力は一体何なんだろう!と思って。

 

市川 僕は近藤強さんに教わった、ウタ・ハーゲンの本がいちいちツボでした。1ページ1ページ、「まじか!」「まじか!」って言いながら読んでた。俳優にはそれぞれの方法論があって、「正しい正しくない」じゃなくて「合う合わない」だったりもするので、アクターズ・コースで教わったことはとにかく何でも実践するようにしてましたね。

 

横田 近藤さんはいろんな本を教えてくださるんですけど、授業前に「みんなはこの1週間で何に出会ったのか」をとにかく出しあうんですよ。映画でも小説でも、何が自分の感覚にヒットして、どう思ったのかを車座になって話すんです。あと、自分の身体が今どういう状態なのか、とか。とにかく、自分の内にあることを、まず言葉に出すという練習を徹底的にしましたね。

 

大谷 うん。あれは、汗かいた(笑)。

 

大石 自分で言葉にすることの大切さはそこで知りましたね。自分の状態を自分で理解する力。

 

横田 劇中に出てくる映画とか小説とか、とにかく知らないものは全部調べて臨むんです。せりふを、自分の言葉として出すということ。そこから何かを自分で発見するということ。そのためには、徹底的にリサーチしなきゃいけない。

 

市川 アクターズ・コースには「自立した俳優を育てる」という指標があるんですね。監督や演出家に言われたことをただやるのではなく、「こんなのもできますけど」って自分から提示できるような俳優であれと。松井さんの稽古も、徹底的にそれでしたね。とにかく俳優自身に考えさせる。僕らに「今、どんな感じ?」って聞いてきたりさえする。そこで近藤さんに教わった「自分の状態を説明する」ということが生きてくるんですよ。教わったことのすべてがつながっていく感じがしましたね。(続く)