稽古場を何度か見学して思ったのだ。この人たちは、こんなに大変な思いをして、わざわざ人目に晒されようとしている。なんて恐ろしい。なぜそんなことを好き好んで? ――けれど彼らの心境は、「好き好んで」というほど単純なものではなかったらしい。
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登壇:市川真也 大石恵美 大園亜香里 大谷ひかる 鬼松功 
   佐藤陽音 しらみず圭 津和孝行 長田修一 横田僚平(金子紗里 欠席)
  (以上アクターズ・コース第4期)
 

 

大谷 私はあの照明に、めちゃめちゃ緊張したな。客席側に広がる暗闇が怖くて怖くて。その分、共演者の顔がすべてだった。ただただ、1年間一緒だったみんなの表情に支えられましたね。「今日子」が話す言葉としてというよりは、大石さんが今日この表情でこのせりふを言ってる、ということ自体がすごく救いだった。

 

大石 こっちはライトで照らされて、お客さんは暗いところにいて、なんか、すーごい特殊な関係やなと思いました。「見るな!」って何度か思いましたね(笑)。

 

鬼松 うん。「晒されてる」感が尋常じゃなかった。最前列に職場の友だちが来てたんだけど、「観ていいものかどうか迷った」って言われた。例えば大園さんが体操してるシーンで、関節がポキポキ鳴ってたらしくて、それを直視していいのか、目をそらしたほうがいいのか、わからなかったって。

 

大石 自分の気持ちが、お客さんに対してちょっと攻撃的になってた気がします。「そっちがその気やったら、こっちだってやったるぞ!」みたいな(笑)。

 

横田 あの環境で優しい気持ちになるのは難しいと思うよ。顔の見えない客席。俳優を精神疾患に追い込むみたいな照明。俳優に暴力的な照明だったな(笑)。自分の中がしっかりしてないと、負けちゃいそうな空間だった。

 

大石 私はゲネの時、「晒されてるなあ……!」って思ったから、公演期間中、AVを観たんですよ。

 

一同 (騒然)

 

大石 明かりの中で暗闇を前にして、「これはすっごい晒されるなあ!」って思ったので、その覚悟を決めなあかんなと思って。世の中で、一番晒されてる人って誰やろう、と考えてAVを観て、勇気づけられました。すごいことしてるなあこの人たち!って。芝居にはまるで関係ないんですけど(笑)。

 

鬼松 僕も同じように「逆に俺が晒してやろう!」っていう気持ちになったかもしれない。連綿と建築の紹介をするシーンは結構恥ずかしいんですけど、笑ってくれるお客さんが一人いるだけで、すごく強い気持ちになったりとか。

 

市川 お客さんのリアクションがあると空気が変わるよね。しーんとされちゃうより、少しでも反応してくれると本当に救われる。観ててくれてるんだ!って思うよね。

 

――開演前の客席の緊張感がすごかったです。開演10分前ぐらいの時点から、全員がしーーん!と待ち構えていた感じが。

 

津和 その間、僕らは座る所もなくて立ちっぱなしでしたけどね(笑)。

 

しらみず みんな、舞台上で芝居しながら緊張をほどいてる感じがあったんだけど、僕は出番が後半だったので、ほとんど緊張しっぱなしで終わったりして(笑)。稽古の最初、本読みの時点で、これはモチベーションを保つのが大変だろうなと思いましたね。みんな、どんどん変わっていくのがわかるんですよ。その中で自分はどう居たらいいんだろうというのは、いつも考えてました。

 

大谷 そこでしらみずさんがすごいのは、「自分はこうやりたい」というアイデアを稽古場にいくつも持って来られるんですよ。

 

市川 まさに「提示できる俳優」だったよね。「僕、坊主にします!」とか「僕、日焼けしてきます!」とか、わけわからんものも含めて(笑)。

 

大谷 でもその「わけがわからないこと」が稽古場には絶対に必要なんです。

 

しらみず 松井さんは8割方、苦笑いでしたけどね(笑)。

 

市川 でもすっぴんで行くよりか、全然カッコいい。「僕を何とかしてください!」じゃないからさ。

 

――では、まとめに入ってみましょうか。改めて今、どんなことを感じておられますか。

 

市川 ……もうちょっとやりたかったです。年末から春にかけて、本当に時間をかけて作ってきたものだったので。公演が終わってから4日経つんですけど、まだ「んあーー!」って思うんですよ。「あそこ、もっとこうしておけばよかったかなあ!」って。

 

一同 (深く同意)

 

市川 もっとこうしておけばよかった、ということにやっと気づけたのに、それに挑戦できない。歯がゆいばかりですね。もうちょっとやりたかった。

 

津和 俺も。この4日間、頭から離れなかった。

 

市川 「よっしゃ、終わったー!」とは、ならないんですよ。もちろん一生懸命やったんだけど。何だろうこれは。

 

大谷 私は、最後のステージとかは疲れもあって、ほとんど記憶に残っていないんですね(笑)。でも改めて考えると、こんなお芝居を1日2回、5ステージもやったんだな!って思って。これはすごいことだなあ!と。

 

横田 なんか、トイレに強くなりましたよね。(※開場後は観客が使うため、出演者はトイレを使うことができなかった)

 

一同 (爆笑)

 

津和 駅のトイレに走ったからね俺。

 

――客入れ中に?

 

津和 いや、休憩中にです。5分間の。

 

――え!!

 

津和 そこでだいぶ力尽きました(笑)。