現役受講生を引っぱり出してみた。フィクション・コース第17期高等科生。普段はみんな、どんな映画談義に花を咲かせているのかなと思って。でも取材者が入ったら緊張しちゃうかな、などと危惧していたら、講師の保坂大輔をはじめ、編集局員たちが口を揃えて言うのだ。「いや、あいつらなら、大丈夫」。そっか、じゃあ、ちょっと放っといてみようかな!(※ネタバレあります、ご注意ください)

 

【保坂大輔】1977年生まれ。映画美学校フィクションコース第5期高等科修了生。現講師。脚本作品に『貞子3D2』等。今年、映画美学校高等科コラボ作品として、ロボットもの『お母さん、ありがとう』を監督。

 

【坂田科伸】埼玉で公務員をしている36歳。30代半ばで映画美学校フィクション・コースに入り、今に至る。そもそも、こんな偉そうに話すほど映画を撮れるわけでも観てるわけでも無いのに、とこの原稿を読んで若干青くなっている。

 

【横山翔一】1987年東京生まれ。早稲田大学第一文学部(現:文学部)にて演劇を学び、作・演出、舞台映像制作、役者と幅広く活動。卒業後、東京芸術大学大学院映像研究科メディア映像専攻に進学しメディアアートを学ぶ。CM制作の仕事を経て、2014年、映画美学校フィクション・コース初等科修了制作『たちんぼ』の監督脚本を担当する。

 

【中村佳寛】(プロフィール)1986年生まれ。映画美学校17期フィクションコース高等科。監督作『姉と弟』。最近、気になって仕方がない作家は森翔太。

 

【飯島明】映画美学校フィクションコース17期高等科生

名前の読みはアキラではなく、トオル。

初等科生時代に脱サラする。先日、キノハウスの1階にて、目の上を数針縫う怪我をし、救急車で運ばれる。縫合後、飲み会にはバッチリ参加。
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保坂 ネットで読んだんだけど、ブロムカンプ監督の一番最初の発想は、あの不良のラッパー二人が子育てをするような映画を撮りたい、っていうことだったんだって。

 

横山 ラッパーはじまりなんですか。マシーンはじまりではなく。

 

坂田 確かに、あの二人のPVを観てるみたいだった。

 

保坂 言われてみると「子育てもの」だったよね。

 

横山 父親はめっちゃマッチョでね。

 

中村 母親は……あれは家で何をしてる人なんだろう(笑)。

 

横山 それ、俺も思った(笑)。

 

保坂 チャッピーも始めは、ディオンの言うことをすごく聞いてるのに、だんだん不良とつるみ出すと、名前を読んでもシカトとかするじゃない。

 

横山 PS4を積み上げながらね(笑)。

 

中村 まさに親父と自分との関係ですよ。

 

坂田 シカトはどこで覚えたんだろう……

 

一同 (笑)

 

保坂 この映画って、誰に感情移入して観る映画なんだろう。やっぱり、チャッピーなのかな。

 

飯島 僕は、ディオンと、チャッピーと、ヒュー・ジャックマンですかね。

 

横山 ディオンかあ……あいつ、終始びっくりした顔してましたよね(笑)。

 

保坂 あいつ、相当ヤバい奴だよね。ロボットにA.I.を搭載しようとしてるわけでしょう。

 

中村 俺が最初わからなかったのは、チャッピーを初めて起動させた時に、開発者のディオンと、後に父親的になる「ニンジャ」がケンカするんですよね。で、母親の「ヨーランディ」が「あんたどっか行ってて!」ってキレて、ニンジャがどっか行くじゃない。何も言わずに。さっきまであんなに熱くなってたのに。えっ、行っちゃうんだ!と。あれは一体、何のための段取り?

 

坂田 うん。僕はあのシーンのせいで最後まで乗れなかった気がする。ひっかかっちゃって。

 

中村 あと「アメリカ」の存在も謎。

 

横山 明らかにニンジャとヨーランディができてるのに、それでも一緒に住んでるの?? っていう。

 

保坂 僕が一番わからなかったのは、シガニー・ウィーバーです。

 

一同 (笑)

 

保坂 絶対シガニー・ウィーバーが重要な役回りをするんだろうなと思ったらさ。

 

飯島 まったくその気配がなかった。

 

中村 終始、シブい顔してるだけだった。

 

横山 もはや、シガニー・ウィーバーじゃなくてもよかった(笑)。

 

保坂 そもそもみんな、この映画に乗れたの?

 

飯島 一回だけだと厳しいんじゃないですかね。俺、実は二回観たんですよ。

 

一同 おおー。

 

飯島 最初、4DXに行ったんです。座席が動いたり、水がかかったり、銃撃の振動が来たりで忙しかったんですけど。で、座談会だからアイマックスでも観ようと思って、二回観たら、めちゃくちゃよくわかったんです。監督が何をやりたかったのかとか。

 

横山 何だった?

 

飯島 あの、突拍子もないラストに行くまでの、えーと……うまく言葉にならない。何だろうね?

 

坂田 聞かれても(笑)。

 

中村 ラストが突拍子もないというよりも、だいたい満遍なく突拍子もないよね(笑)。それも「うわあすごい!」っていう突拍子もなさじゃなくて、「……ん?」ってなる突拍子もなさ。

 

横山 不良の巣窟にチャッピーを置き去りにしておいて、あとで「おい大丈夫か!」っていうところとかね。

 

中村 案外チャッピーって弱いな、って思った。

 

坂田 壊れるところから始まるから、「弱いロボット」として観ちゃうよね。

 

中村 ヒュー・ジャックマンが開発した、めちゃめちゃマッチョなマシンを観て「あ、これ、『ロボコップ』だ!」って思った。『ロボコップ』と並列で観る映画なんだな、と。

 

横山 あいつが出てきた時、ちょっとアガったよね。

 

中村 「あ、飛ぶのね!?」っていう(笑)。

 

飯島 出動する時、ものすごい爆風だと思うんだけど、ヒュー・ジャックマンは平気そうなんだよね(笑)。

 

横山 なんか、ヒュー・ジャックマンが最初から「俺が主役だ!」みたいな顔して出てきたから惑わされた。

 

中村 ジャンボ尾崎みたいな後ろ髪してね。

 

一同 (笑)

 

中村 すっげえ身体ごついのに半ズボン履いて、物陰に隠れて何するのかと思ったら、でっかい双眼鏡でこっち見てるっていうね。

 

一同 (爆笑)

 

中村 意味不明のシーンが多いんだよな。チャッピーは何をそんなにPS4を積み上げてるんだろう、とか。

 

横山 チャッピーは物覚えが早いのか遅いのかも気になったな。

 

中村 うん。そういうことにいちいち引っかかって、要するに、乗りきれない。

 

横山 そう。乗れない。全体的に。『her/世界でひとつの彼女』はちゃんと乗れたのに。『チャッピー』は設定に穴がある感じがするんだよなあ……

 

飯島 僕は、そのへんはいっそ、どうでもいい映画なんじゃないかと思ったけど。

 

保坂 俺もそう思った。

 

坂田 でも、あのメカがどれくらい固くて、どれくらい強くて、っていうのがはっきりしてないと、この映画にどう乗ったらいいのかわからないんですよ。

 

中村 成長も、あんまりないしね。

 

坂田 そう、赤ちゃんみたいなチャッピーが、すごいギャングスタに育っていく過程が面白いのかと思ったら、意外とそこはスルーされてくというか。最初からすごく動けるし。

 

中村 しかも動きがめっちゃ速い(笑)。

 

坂田 動きと中身が最初から噛み合いすぎてて、新しいものが入ったっていう感じがぜ全然しないんだよね。ただ、ああいう動きをする機械になった、っていうだけで。

 

中村 成長するっていうよりも、教育されるたびに「塗り替えられる」感じなんですよ。

 

坂田 全体的には面白いはずなんだけど、いろんなことが実感として入ってこない。もちろん、ある種のグダグダ感がこの映画の魅力の一つではあると思うけど、例えば「手裏剣が当たったら人は眠れる」みたいな勘違いが、全体的にもっと効いてたらよかったのにと思って。教育されたことを勘違いしてる面白さが。

 

横山 彼らの納得が、俺らの納得のスピードを超えてるんですよ(笑)。

 

保坂 俺はまさにその子育てパートが一番面白かったな。親はそろばん習わせてみたり、絵の教室に通わせてみたり、情操教育を試みるんだけど、実際は万引きとか火遊びの方が子供は興奮するじゃない。藤子・F・不二雄の『恋人製造法』っていう漫画知ってる? 好きな女の子の髪の毛や皮膚を持っていくと、彼女のクローンが作れる機械があってさ。それで作ってみようとしたら、見た目は彼女なんだけど、中身は赤ん坊なわけ。

 

坂田 外見と中身のズレっていう問題が、『チャッピー』にもあるじゃないですか。機械だけど人間、みたいな。

 

保坂 うん。そこがひとつのテーマだよね。

 

坂田 僕は終始、ロボットにしか見えなかったんです。あまり人間らしさを感じなくて。

 

横山 声とかのせいもあるんじゃない?

 

中村 うん。よくない軽さだった。『ロボコップ』の声って、ある時点で胸に来るんだけど、『チャッピー』はいつまで経っても子犬のままというか。

 

坂田 そう、動物ぐらいにしか見えなかった。感情はあっても、深いコミュニケーションは取れていなくて「頭のいい動物」みたいな感じしか受けなかった。

 

保坂 『her~』は人工知能のレベルがめちゃくちゃ高くて、人間をも超越した存在になっていくじゃない。今回もそういう映画かと思ったけど、ちょっと違ったね。

 

横山 でも、オチは、結構好きです。人間を機械に入れるっていう行為を、結構躊躇なしで行くじゃん。

 

坂田 機械側がね。

 

横山 最後に出てくるあれは、果たして本人なんだろうかっていうさ。人というのは、存在していると思うから存在するのか、それとも、もともと存在するものなのか。そこが嫌いじゃなかった。

 

飯島 うん。あの結末ありきで作ってる感じするね。

 

保坂 ネットでいろんな人の『チャッピー』評を見てたら「『そして父になる』を連想した」って書いてあってさ。育ての親と、生みの親との葛藤。

 

中村 え!(笑)

 

飯島 そこ、なかったと思います僕!

 

横山 キリスト教の概念は、すごくあると思いますけど。だからロボット・アクションというより、観念的な映画なのかもね。

 

保坂 SFファンに言わせたら、突っ込みどころ満載なのかな。

 

飯島 ロボットものってだいたい、自分の力を自覚してるところから始まるじゃないですか。でもチャッピーは、自分の力を知らなくて、周りの大人が「お前はロボットなんだからやれるだろ!」っていう構図ですよね。僕はそこが好きでした。車を盗むシーンとか。

 

横山 そんなことができるとすら思ってなかったチャッピーが、自分の力に気づいていく。

 

飯島 で、お父さん(ニンジャ)に何かを教わっている時だけ、お母さん(ヨーランディ)がいない、とか。そういう人物配置は何を意図しているのかなと思った。

 

横山 そこを観る感じの映画ではないんだろうね。誰に感情移入したらいいのか、最後までわからなかったけど。

 

飯島 保坂さんは脚本家として、この映画の最後ってどう思います? あの会社はこの後どうなったんだろう、とか考えますか。

 

保坂 あそこがどうこうじゃないけど、あの先は観たいよね。

 

一同 観たいです!

 

保坂 授業でよく、みんなの作品を読んで講師たちが「この先を書けよ!」って言うじゃない。あの感じがあった。

 

一同 (笑)

 

保坂 これからどうやって暮らしていくんだろうね。指名手配されちゃうわけだから。

 

坂田 あと、バッテリー問題?

 

横山 確かに、どこまで持つんだろう。

 

飯島 普通に充電器を作るんじゃないかな。

 

横山 ……全部ハッキングで何とかしちゃうんじゃないの(笑)。