映画美学校史上初の試みだ。今年、フィクション・コース初等科第18期生たちは、1年間の総まとめとなる修了作品として「全員1本ずつ撮る」ことに挑んだ。そしてその中から7つの作品が、8月29日の上映会で上映される(18時半からユーロライブにて。予約不要! 誰でも入場OK!)。http://www.eigabigakkou.com/news/info/5249/
今日はその7名に、根掘り葉掘りいろいろ聞く日なのである。(聞き手:星野洋行(ティーチング・アシスタント) 構成:小川志津子)

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登壇者:(左から時計回りに)

市川昴一郎『俺』

宇土ゆかり『イノセント』

鈴木拓実『あとはこの坂を下りるだけ』

竜口昇『The Boxing』

藤倉麻子『アチラグァ コチラグァ』

宮城伸子『ハートをこじあけろ』

(伊藤資隆 欠席)

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——まずは市川くんから、自分の作品のセールスポイントを教えてください。


市川 僕は実際に父と母に出てもらって、ドキュメンタリーに近いものを撮ったんですけど。だったら普段、家にいてもできないような話をしよう、と思ったのが大きかったと思います。僕は映画美学校に入って初めて映画を撮ったんですけど、当初はせりふを書くことが、どこか恥ずかしかったんですね。でも、恥ずかしいことをちゃんとやらないと、この先も作れないわけだから、何とかがんばってきたんですけど、修了作品はあんな感じになりました。


——ドキュメンタリー映画を撮りたい、と持ちかけた時、親御さんの反応は?


市川 実家は染物屋をやっているんですが、最初は「仕事しているところを撮らせてほしい」という話しかしていなかったんですね。本番になって「実は演技もしてもらいたいんだけど」「ほんとにそんなので映画はできるのか?」みたいな展開になり。特に母親はカメラで撮られるのが嫌いだった……ということを今回初めて知ったんですけど(笑)、そこは父親に助けられながら、撮り進めていきました。


——「フィクション・コース」に在籍しながら「ドキュメンタリー」を撮る、という選択肢もアリだったと。台本とかは前もって用意していた?


市川 一応作ったんですけど、実際にはそのとおりにはいかなかったですね。撮影しながら、合間合間に書いていく感じでした。だから事前に学校に提出していた構想とは、だいぶ違うものになりました。


宮城 面白かったです、市川さんの! カメラの位置がいいって講師が言っててそうだなと思ったし、構成もきちっとしてて。市川さんがお父さんに対して敬語だったのも面白かった(笑)。あと、スリルがあったんです。市川さんが帰り際に両親に「話があるから」って言う、ああいうスリルがあるのは、私たちの中では市川さんだけだった気がして。


——竜口くんは、カメラマンとして参加していますよね。


竜口 撮影に行く前に、ある程度は「こういう感じで」っていうのを決めて行ったんですけど、予定外のことがいろいろ起こるので、みんなで現場でアイデアを出しあいながら、市川さんがそれを練り上げていった感じでした。それがどう決着がつくのか、わからずに撮っていましたね。


——編集の時はどうでしたか。


市川 ワンシーンずつが長いので、それをただつなげると膨大な量になってしまうから、他のドキュメンタリー映画を観て参考にしていました。平野勝之さんの『監督失格』とか、想田和弘監督の『Peace』とか。でも作り終わってみて改めて、もうちょっとやれたな、って思っています。父親と母親が会話するところとかを、もっと撮っておけばよかったなと。そこが悔しいですね。


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——藤倉さんは、どうですか。自分の作品のセールスポイント。


藤倉 そうですね……コンクリートを、綺麗に撮れたことです。


一同 ……?


——コンクリートを、撮りたかった?


藤倉 コンクリートを撮りたかったです。気に入った顔の人たちに、思いついた会話をしゃべってもらって。


——出演者、多かったよね。現場はどんなふうだったの?


藤倉 なんか、当日、いろんな事情があって。いっそシナリオを変えてやろうと思って、1時間もらってその場で書きなおして、撮ったんですけど。でもその後は、テンポよく撮れたと思います。現場に着くまではいろいろ、カット割りとか考えたりしてましたけど、現場に着いてから「あ、ここ撮りたい」「ここ増やしたい」ってたくさん思ったので、それを撮って。っていう感じでした。


——普段の授業で「課題」が出されますよね。各自、何らかのものを撮ってきて提出する。今回の『アチラグァ コチラグァ』は、その延長線上にあったものですか、それとも修了製作のために新たに生み出したもの?


藤倉 会話のシーンは、課題で撮ったものを整理して、もう一回やってみたものです。音とかも、課題ではカメラマイクでやっちゃったりしてたので、修了製作ではちゃんとしたマイクでやりたいなと思ってました。あと、これはずっと、建造物としゃべりたいっていう願望があって。


一同 ……??


藤倉 実際に聞こえはしないんですけど(笑)、コンクリートとか壁とかが、しゃべってたらいいなあって思うんです。とにかく私は人工物が大好きなんですよ。人間によって、すごく精密に設計されて、作られて、放置されて。そういう存在に対して、憧れがあるんです。それを、ファンタジーとしてよりも、日常的にあるけれど手に負えない、理解を超えたものとして描きたいと思っていて。そういう美しいものたちの中で人間がしゃべっている怖さ、畏怖を描きたいと。


——好きな人工物は、コンクリートなの? 石とかじゃダメ?


藤倉 石は、自然物じゃないですか。


——プラスチックは?


藤倉 プラスチックにはそんなに感動しないんですよね……何だろう。プラスチックって完全に、見るからに人工物じゃないですか。でもコンクリートって、作られてるんだけど、1個の生命体みたいな。「作られたら、こうなっちゃった!」感。映画美学校もコンクリート打ちっぱなしだけど、もっと荒くれている方が好き。放置された高架橋とかに惹かれるんです。放置されてるのにこき使われてる感じ。やがて劣化したら、砂になっていく感じ。私、砂になりたいんですよ。


一同 (笑)


鈴木 初めて聞いた(笑)。


——結構、難しいことをやろうとしてるね。目に見えないものを撮ろうとしてる。はっきりとしたストーリーがないものを志向しているのも、そういうことなのかな。


藤倉 あんまり、枠組みを決めたくないって思ってます。撮りたいと思ったもの、いいと思うもの、憧れるものをただ撮っていたい。私はミュージックビデオも作るんですけど、それも音を聞いて、それが形になって、それを画にするという感じですね。それを言うと修了製作は、かっちりしすぎて「画の連続」みたいになってしまったことが悔いとしてありますね。もっと、匂い立つ感じを撮りたかったです。


——そんな藤倉さんは、映画美学校の居心地はどうでしたか。


藤倉 課題講評の時に、3人の講師の皆さんが、本当に思ったことを言ってくださるんですよ。当たってるな、と思うこともあるし、思ってもみなかったことを言われることもあって。自分の頭の中が整理される感覚があったのが、すごくよかったと思います。(つづく)

<その2>
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——宮城さんにも、同じ質問をしてもいいですか。


宮城 大工原さんが、思ってることをすぐ素直に言っちゃうんですよ。講師の方々は講評の時に、受講生を見ながらフォローしたり、話を変えてみたりされるんです。そんな中あえて、かもしれないんですけど(笑)。修了製作の作品については「宮城さんの真面目さといい加減さが出てる」「あと、ちょっと壊れてるよね」って言われて。ああ、そうだなあと思ったんです。(本人注:提出課題は己が出るし、晒した結果の講評は恥ずかしいし怖いのですが、美学校はプロから自分でも気付いてない事に対して客観的な意見をもらえる貴重な場所だと思います。)

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——「違うのに!」って思うことは?


宮城 あります(笑)。けど、それにうまく反論できる話術がないので。それに、他の受講生に対する講評を聞いていても、正しいなあと思うんですよ。ということは、自分に対する講評も、納得せざるを得ないなあと。


——では、作品のセールスポイントを。


宮城 主人公を演じた、しらみず圭さんですね。時間のない中で撮らなきゃいけなくて、とにかく主人公をいっぱい撮ろう、と思って、しつこく撮ったんです。そしたら、素の部分というか、私が普段接していて面白いと思っていた彼の良さが画面に表れていたので。


——しらみず圭さんは、アクターズ・コースの受講生ですね。


宮城 「平田オリザゼミ」という授業があったんですね。フィクションと脚本、アクターズの受講生が、交じり合って短編演劇を作るという。その時、しらみずさんと一緒の班になったんです。


藤倉 私も一緒でした。


宮城 うちの班はフィクションから3人、アクターズから3人、脚本コースから2人という構成で、アクターズの中にも演出経験があったり、監督志望だったりする方もいて。「作る」ことに対して積極的に意見を言い合えるチームでしたね。アクターズって演じることに対する意識がこんなにすごいんだ!って思ったり、脚本コースの作品を生み出す、言葉に対する意識には感服させられ通しでした。


藤倉 書く人がいて、演じる人がいて、フィクションって一番、「何者なんだろう?」って考えさせられたよね(笑)。


宮城 ほんとにそう! (本人注:この時アクターズの3人は、映像作品に参加した事がまだないという話だったので、機会があれば撮ってみたいとも思っていました。

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——宇土さんは、今回の修了製作はいかがでしたか。


宇土 とにかく時間がなくて、あと私は編集ができないので、違う方にお願いしたりして、ぎりぎりすべりこみで提出しました。現場でも手探りでしたが、事前にざっとしたシナリオを用意して、その通りに撮ってみようという感じでしたね。私自身の、段取りの不手際で。後から補正できる場所ではあったので、大丈夫だったんですけど。


——今年の修了製作は、同じ時期に全員が撮っていたわけですよね。スタッフの調達はどのように?


宇土 撮影場所が私の地元で都内からとても遠かったので、みんなにお願いできなかったんですが、4人スタッフが集まってくれました。私自身は現場がとても楽しかったので、撮影が終わって、「楽しかったね!」って言ったら「いやあ……大変だったよ……」って言われてショックだったんですけど(笑)。「無茶ブリするからねえ」って。


——ご自身では、無茶ブリだとはあまり?


宇土 ええ。思ってなかったんですけど。


——そうなんだ(笑)。僕の印象としては、宇土さんは結構最後まで頑固というか、ブレないですよね。「すみません」と言いながら絶対に折れない感じが(笑)。


宇土 一番嫌なタイプじゃないですか(笑)。でも私は家が遠くて、あまり授業に参加できなかったんですね。遅くに来て、早く帰らなければならない。でも講師の皆さんが熱心に指導してくださって。修了製作を撮影するにあたって、今まであまり仮題を出せなくてすみませんって西山さんに言ったら「いや、今からはじめればいいんじゃないですか?」ってサラリと言っていただき、ほっとしました。なので、忙しい方も、映画美学校には居場所があるので、安心していいと思います。


一同 (笑)

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——鈴木くんは、どうでしたか。映画美学校で何か、発見はありましたか。


鈴木 入る前、もともとは脚本コースに入ろうと思っていたんです。机に向かって書く個人作業の方が、自分には合ってるんじゃないかと思って。でもいろいろあってフィクション・コースに入って、いざ書こうとしてみたら、自分がシナリオを書くのがとても苦手だということがわかりまして。課題を自分で撮ってみた時の絶望感、というのがすごくありましたね。


——いつの課題?


鈴木 全部です(笑)。もっと言えば修了製作も。シナリオの時点でまったく納得がいかなかったんですよ。ただ撮影日だけが決まっていて。撮った後も、素材を観たくなくて、しばらくほったらかしにしてました。役者さんにも申し訳なかったし、もうちょっと何かできたのに!っていう気持ちがあります。


——「ここはできたな!」と思うところはありますか。


鈴木 まず、役者さんが一人ひとり、すごくいい顔をされていたので。あと、現場に入って、カットを割るのが楽しいんですよ。それは今回の発見でした。割るのが楽しい。っていうか、現場が楽しいです。これは、この学校に入る前にはわからなかった楽しさなので。


——鈴木くんはどんなふうにカットを割っていくんですか。


鈴木 あらかじめ頭の中で映画を作っておいて、実際に芝居をしてもらって、カメラマンの伊藤さんと相談して、足し引きをして。今回、部屋の階段を下りるカットがあったんですけど、そこが全然イメージが湧かなかったので、伊藤さんに「何か新しい階段の使い方はないですか?」って聞いたら、とてもいい感じになって。それが一番お気に入りのカットです。


——確かに現場に行った時、事前にきっちり考えられた上での現場なんだろうなと思いましたよ。


鈴木 そうですね。ワンカットワンカットを丁寧に撮れたことが、セールスポイントの一つかもしれないです。あと、僕が確保できたスタッフ5人が、それまでにも他の受講生の現場にたくさん入っていたので、みんな習熟度が高かったんですね。それに支えられたところはあると思います。


——全カリキュラムを終えてみて、この学校の居心地はどうでしたか。


鈴木 もともと、真剣にものを作っている人がたくさんいるという環境に身を置きたかったんですね。もの作りに取り組んでいる人が自分の周りにいなかったから、まず何をどうしたらいいのかわからなかった。その点がまず、大きく得たことのひとつです。講師陣に言われることも、納得できることばかりなんですよ。どんなに「ダメだ俺……」って思って出したものでも、全部観て、ちゃんと何かを引っぱり出してくださる。


——覚えている講評はありますか。


鈴木 講師の方々がそれぞれ、違った評価をくださるんですね。ある方から評価していただいた部分でも、別の方は評価されなかったり。だから評価されたことよりも、「これ、どうなの?」って言われたことの方が頭に残っていて。三宅唱さんに「粘り強さが足りない」とか「予告編を観てるみたいだ」って言われたんですけど。それを、どうやったら軽薄ではないものにできるのかっていうのが、これからの課題かなと思いますね。修了製作がゴールなのではなくて、そこで浮かんだ課題が次の一歩につながっていくというか。


——それは、他の皆さんもそうですか。


市川 そうですね。次、やりたいです。


竜口 みんなそうですよね。次の企画、持ってるでしょ。


藤倉 持ってる、持ってる。


竜口 撮ってる時点で、次の企画を考えてましたよね。実際。(つづく) 


<その3>
 

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——竜口くんの作品についても、聞かせてください。


竜口 18期の人たちをとにかく面白く撮れたら、と思って撮りましたし、撮れてると僕は思ってるんです。この人はこういうキャラだから、この人と会話させたら絶対面白くなる、っていうプランのもとに。

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——ということは、18期生それぞれの面白さを、すでに把握していた?


竜口 僕は自分の作品の他にも、3作品ぐらいの現場に関わっているんですね。そこで関わった人たちみんなと、かなり密度の濃い時間を過ごしたんです。それがなければ撮れなかった、というのがありますね。


——それは具体的に、どうやって知っていったんですか。


竜口 いやもう完全に、飲みニケーションです。あと、タバコミニュケーションと。


——最後まで、シナリオにつまづいてたよね。


竜口 それまで、まったく別のものを考えていて。


——面白くないんですよ、これが。


一同 (笑)


竜口 そのふんぎりがついたのが、撮影の2週間前ぐらい。今まで考えてたものを捨てて撮るぞ、となった時に、「18期生を撮るしかない!」と。


——確かに、観ていて「外部」をあまり感じなかったです。


竜口 みんなが俳優としてどれだけ芝居ができるかというのはわからなかったけど、「この人なら、これはできるだろう」というのが、なんとなくあったんです。撮ってる最中、「これで大丈夫なのかな……」とも思ったんですけど、できたものを観てみたら「お、これ、イケてんじゃん!」っていう感じで。でも、どうしたらこれを撮れたのか、というのが実はまだよくわからなくて。偶然できちゃった、という感じがしています。


——そうやって、仲間たちで撮った作品が、今回一般公開されるわけですよね。


竜口 外に向けて撮る、というイメージがなかったですからね。まず身内にウケたい、って思ってたし(笑)。


——今回は結構、身近な人を被写体にした映画が多く選ばれていますよね。竜口くんは同期の友だちだったり、市川くんは親御さんだったり。大工原さんも「身近な人を撮った方が、今回は面白かった」と言っていた。


宮城 自分の作品に集中するという意味で、身近な人を撮るという事が有効だったんですかね?ここに選ばれた人たちの作品はそういう意味ではスタッフもミニマムで、修了製作だから大勢のスタッフと一丸となって!っていうよりは、最小限のスタッフで作品作りに集中できた人たちなのかなと。


——撮影するにあたって、お互いに感想を言い合ったりはするの?


鈴木 しますね。


宮城 感想ぐらいは。


竜口 僕は初めての課題を出した時に、星野さんに言われたことを今でも覚えてます。


——(笑)。一番最初の課題作品で彼は、名曲と名高いRadioheadの『Creep』をまるまる1曲、クライマックスでかけまして。


竜口 みんなにぼろっっくそに言われて、さすがに殺意が芽生えました(笑)。講師陣にもあれがどうダメなのかを徹底的に言われて、今思えばとても正しいなと思うんですけど、でも当時は殺意が(笑)。


——「これつまんないよね」「つまんないよ」「なんでつまんないんだろう?」みたいな応酬がね。


宮城 それをにこにこしながら言うんですよね(笑)。


——一番胸に残っているダメ出しはありますか?


鈴木 自分も含めてみんながよく言われていたのは「その先を考えてよ」。ストーリーが終わった後のことを、みんなもうちょっと考えてみたら? って。「その後が観たい」「そっちの方が大事だ」って。


宮城 あと「大事なことを曖昧にしないで」っていうのもすごく残ってる。


竜口 「去らない」ルールというのもありました。登場人物が簡単に去らない、死なないストーリーを考えろと。


鈴木 「別れちゃいました」「死んじゃいました」でおしまいにするより、そうならない展開を考える方が、広がりがあると。


藤倉 あと私は「必ずしも劇映画じゃなくてもいいんじゃない?」って言われましたね。


宇土 私は課題を出していなかったんですけど、みんなの講評を聞きながら、必ず何かいいところを探して褒めていらっしゃるなと思いました。いいところを引っぱり出して、伸ばしていかれるようなイメージでしたね。だって、23時過ぎても講評を続けていらっしゃるんですよ。とても熱心でびっくりしました。


鈴木 僕は最初、苦戦しました。なかなかついていけなかった。課題も多いし、毎日学校に来てました(笑)。でも年明けぐらいから、急に楽しくなったんですよ。実習を重ねたおかげで、「現場には何をする人がいるのか」「現場では何が為されるべきなのか」をつかめたあたりから、居かたがわかってきた。


——逆に、もっと欲しかったことはありますか。


竜口 シナリオの書き方、ですかね。


一同 (うなずく)


——え、藤倉さんも、ちゃんとしたシナリオが書きたい?


藤倉 はい。ていうか、今書いてます。街頭で、男女5人が、おじさんを拉致するんですよ。


宮城 ホームレス?


藤倉 じゃなくて、結構偉いおじさん。総理大臣的な。


——総理大臣を拉致する話?


藤倉 でも結構軽い感じで。


——結構軽い感じで総理大臣を拉致する話(笑)?


藤倉 陰惨な感じじゃなくて、SFに近い感じの。ほんとはSFがやりたいんですよ。映像だけが浮かんでいるから、これをシナリオにしたいんです。あと、町並みがぐわーっと動いているイメージだから、アニメーションにも手を出したくて。


——他に次回作の構想がすでにある人は?


竜口 自殺したいと思っている人がいて、それを周りに相談したら、みんなすごい乗ってくれて、自殺をみんなで手伝うという話です。


——……何だこの「決まった」感(笑)。


竜口 作品を作るにあたって、どう考えを進めていけばいいのかということが、修了製作を通しておぼろげにつかめた気がしていて。それを受けてのアイデアなんですけど。


——やってみて、気がついた?


竜口 そうですね。やってみなかったら本当に何にも気づかなかったと思います。


市川 そもそもこの学校には「開講前課題」というのがあって、初回の授業までに身近な人の魅力を撮ってくることになっているんですけど、それが僕には「自分で何かを作る」ことの初体験だったんですね。そこで気付かされたことが今につながっている気がします。


——では最後に、これからこの学校に入ろうかどうしようか迷っている人たちに伝えておきたいことを聞かせてください。


宇土 本当に参考にならないと思うんですけど……忙しくて授業に出られなかったり、課題を出せなかったりしても、最後まで続けていいし、続けることが重要かもしれません。


藤倉 撮りたいものを撮れば、必ず反応してもらえます。私は撮りたいもののイメージが最初からあったんですが、それを曲げることなく、わりと揺るがずにいられました。何だか変な映像が撮れちゃったとして、それが好きだったら、それを出せばいい。意外にちゃんと意見を言ってもらえるので。「これ大丈夫かな……」って思うものでも、どんどん出していいんだなと思いました。


宮城 私は、入るのにとても迷ったんです。でも、もっと軽い気持ちで入っちゃってもよかったと今は思ってます。タイミングとかありますけど、私もできるんかなと思ってる人がいたら何も考えずにとりあえず入っちゃっえって。入れば課題が次々あって、その迷う時間を経験する時間にできるから。ああできないできない、せっかくここにいるのに!っていう思いであっという間に1年が経ちましたが、そんな私が上映の機会を頂けたので、入ったら、何かしら、あるよ。って思います。


鈴木 ほとんど言われちゃったな……(笑)。本当に、どんなものを出しても何らかの反応が返ってくるんですよ。作ってみて、反省点が生まれて、それを踏まえてまた作る。というプロセスが3回あるんです。だから前に作ったものの要素を別の形にアレンジしたりして。期限までに強制的に新しいものを作る機会なんか、普通に生きてたら、あまりないじゃないですか。自分の生活の中に「新しいものを作る」というサイクルが生まれる。入ってよかったなと思う、一番大きな理由がそれですね。


市川 在籍していた1年間は、自分が撮った作品をスクリーンで観られるというのも大きかったと思いますね。ここを卒業して、今後撮っていくとしても、それを製作段階からスクリーンで観られることなんて、本当に少ないわけで。ここに入って課題を撮れば、それは必ずスクリーンで観ることができる。いい体験だったなと思います。


竜口 この学校にはほんと、いろんな人がいるんですよ。最初は「こいつ、絶対友だちにならない!」って思ってた人もいるんですけど、でも今になると、すごい仲良くなってたりするんですよね。本当、楽しかったっす18期。講師陣も、自分たちのことを思って意見を言ってくださるので。想定外のことも言われるけど、一度「自分の感覚を疑う」っていう体験を、ぜひしてほしいと思いますね。(2015/8/8)