フィクション初等科第19期生の濃すぎる1年が終わろうとしている。今年は30本近くもの修了作品が提出された。こっちで監督だった人が、あっちでは録音部だったり、出演者だったりする、そんなアメーバ状態が現在のフィクション初等科の魅力でもある。今年も去年同様、先日行われた「セレクション上映会」で「上映された人」と「されなかった人」に徹底取材。本日は「されなかった人」座談会をみっちりとお伝えしよう。(小川志津子)
映画美学校HP
登壇者:小穴康介、齋藤成郎、高橋理美、西牟田和子/星野洋行(ティーチングアシスタント)、松本大志(修了制作デスク)
映画美学校HP
登壇者:小穴康介、齋藤成郎、高橋理美、西牟田和子/星野洋行(ティーチングアシスタント)、松本大志(修了制作デスク)
——まずはざっくりと、この学校についてお聞きしてみたいと思います。なぜ映画美学校に入ったのですか。
西牟田 私は、大学でドキュメンタリーを撮ってたんです。それで友だちのバンドのPVを撮ったり、結婚式のビデオを撮ったりしていたんですけど、ちゃんと技術を学んだことがなかった。それでネットでいろいろ検索してたら、何件目かに映画美学校が出てきて。安いし、社会人でも通えるということだったので、ここしかないなと思って入りました。
齋藤 僕は別の学校の説明会に行ったんです。そしたら何というか、すっからかんな感じがしたんですよ。「え……何してる人……?」みたいな監督さんがいっぱいいて。それでいろいろ調べたら、この学校のことを知って。シネマヴェーラ(KINOHAUS4階にあるミニシアター)にはたまに来るし、ビルは洒落てるし(笑)、いいなあと思って。
——すっからかん感はなかったですか。
齋藤 なかったですね。みっっちみちに詰まってました(笑)。
星野 齋藤くんは、カリキュラムの途中から入ってきたんだよね。
齋藤 最初の「課題1」をみんな撮り終えて、講評を受ける1週間前ぐらいでした。なんか、みんな怖かった。
西牟田 怖かった?
高橋 集団がすでに出来上がってる感じだったもんね。
齋藤 そう。そこに飛び込むのはほんと、「えいや!」っていう感じだった。
高橋 私は大学生なんですけど、大学にあまり馴染めなくて(笑)。それで、新文芸坐で夏期講座のチラシを見て、「夏期講座だけ」って決めて入ったんです。そしたら自分は思っていたより、みんなで作ることが好きなんだなってことがわかって、その勢いでフィクション・コースに入りました。
星野 夏期講座では、僕がアシスタントをやった班だったんですよ。
高橋 めっちゃ優しかったです、星野さん。
小穴 過去形(笑)。
星野 初めて出会った人たちが班を組んで、しかもフィルムで撮影するから、大変なんですよ。で、高橋さんは自分が撮影をしたところで、あまりにもうまく行かなすぎて、最後にちょっと舌打ちしたんだよね(笑)。それを聞いて「この子は、何か持ってるぞ!」と思った(笑)。
高橋 幻聴です、幻聴。
小穴 僕は、シネマヴェーラがすごく好きで通ってたので、映画美学校についてはもともと知ってたんです。このビルの地下に何かがあるぞ、っていうことだけは(笑)。で、ある映画を観に行った時に、ちょうどガイダンス(説明会)をやっていて。今までたくさん映画を観て来たけど、「どうやって作られているのか」については、確かに考えたことがなかったなと思って。そしたら大工原さんだったかな、「とりあえず、入っちゃいなよ!」みたいな感じのことをおっしゃったんですよ。
一同 (笑)
小穴 で、入ってみたら、結構楽しかったんです。何かを準備するだけでも、みんなでワイワイ言いながらやるのが本当に面白かった。
西牟田 私は、ここに来るまではカメラも監督も全部一人でやってたんですけど、カメラの人がいて照明の人がいて録音の人がいて、助監督がいて制作がいて、っていう仕組みをここで知りました。みんながそれぞれの仕事に分かれて一つの作品を作る、っていうのを学んだ気がします。
星野 初等科のカリキュラムは、それこそ大工原さんじゃないけど「撮ってみなよ!」っていうことなんですよね。特定の人じゃなくて、受講生みんなが監督として撮ることが前提だから、みんな何らかの形で互いの作品作りに参加するわけです。提出課題が同じ時期にいくつも重なって大変なんだけど(笑)、その中で「やっぱり監督をやり続けて行きたい!」だけじゃなくて、「照明部って面白いな」とか「録音部やってみたい」っていう選択肢が、自分の中で増えてくれるといいなと思うんですよね。
——そもそも4人は、映画監督になりたくてここに来ましたか?
高橋 私、小学校の時に一度、映画を撮ろうとしたことがあるんですけど、本気すぎて友だちに嫌われかけたんですよ(笑)。すごい号泣しながら「ちゃんとやろうよ!」って合唱コンクールの時の女子みたいな感じでみんなに訴えて。ここにいると、その時のことをよく思い出しました。自分は「作りたい人」なんだ、っていうことをちゃんと昇華させなくちゃという思いがあったので、「映画監督になりたい!」っていう野望があったわけじゃないんですけど。
星野 どんな脚本を書いてたの?
高橋 クラスにすごく嫌いな男の子がいたんですけど、彼が世界を破滅させる菌を持ってるんです。
小穴 「菌」っていう発想が小学生だね(笑)。
高橋 瓶の中に入っていて、カタカナで「ポイズン」って書いてあるんです。
一同 (笑)
星野 当時から一貫して破滅志向なんだね。
一同 (爆笑)
高橋 でもたぶん私は、ほんとは好きだったんです。その子のことが。
一同 あーーーー!
男子 全然わかんない! 女子、全然わかんない!!
星野 でも、その匂い、若干あるよ。高橋さんの修了作品に。
高橋理美『少年たち』
松本 うん。これ、意外と恋愛映画なんですよね。今、腑に落ちた。そっか、そっか。
——他の皆さんはどうですか。
齋藤 僕はほんとに映画監督になろうと思って来ましたよ。
星野 課題一つも出してないけどね(笑)。
齋藤 そうなんです(笑)。「課題2」と「課題3」は撮ったんですけど、(星野注:初等科では、修了制作の監督エントリーより前に「短篇をつくる」という作品を撮る課題が3つ出される。それぞれ5から10分程度の短篇映画を決められた期限の中で撮って提出する、というもの。それぞれの「短篇をつくる」は、受講生全員、初等科担当講師全員の前で、試写室で上映をし、ディスカッション形式で講評が行われる)出すまでもないなーと思って。あと、出すのがちょっと怖かった。だから逃げ続けてきたんですけど。
高橋 私は、恥ずかしいなあっていつも思ってました。こんな状態で出すのは恥ずかしいって思いながら、でも出さないと意味ないなと思って。
齋藤 提出も回を重ねるごとに、そういう気持ちが薄れてきたりはしなかった?
小穴 なかった! いつも安心できなかった。
松本 「俺はあいつより面白いものを撮る!」みたいなテンションは?
星野 そうそう。19期って、ちょっと牽制しあう感じがあったよね。
西牟田 ああ。いろんなところで、いろんな人が言ってましたね。「あいつの作品って(講師陣に)褒められてるけど、何がおもしれーの?」みたいな。
一同 (爆笑)
小穴 それを聞くたびに怖くなるんですよ。自分も言われてるんじゃないかなと思って。
——カリキュラムは、ハードでしたか?
星野 それについてはこの4人はバラエティに富んでますよ。西牟田さん、齋藤くんは社会人。小穴くんは大学院生。高橋さんは大学生なので。
西牟田 平日の夜2日間と、土日が完全に埋まるので。会社行って学校行って……っていう繰り返しだったので、会社の評価がまず下がりましたよね。
一同 (笑)
西牟田 私、それまでは意欲的に働いてた人なんですよ。持ち前の真面目さで、すごく頑張って働いてたんですけど、ここに入って、人生の労力の注ぎどころが違うってことに気づき始めたんです。しかもこの学校では、授業のある日だけ来てればいいんじゃなくて、みんなの都合を合わせていくと、学校のない平日の夜とかに撮影せざるを得なかったりするんですよね。でも自分はこっちをやっていたいんだなって今回改めて思ったので、最終的には、会社を辞めました。映像の仕事に転職したいとずっと思っていたし、そのための経歴が欲しくてここに来たわけなので、先日、退職いたしました!
一同 お疲れ様でしたー!(拍手)
——その場合、ここで得た西牟田さんの「売り」って何でしょう。
西牟田 何でしょうねえ……学校に入るまでは「撮れるものを適当に撮る!」っていう感じだったんですね。それに比べれば、音に意識したり、カット割りを具体的に描いたり、脚本もちゃんと読むことができるようになったとは思います。
西牟田和子『公園の会』
星野 もちろん全員ってわけじゃないけど、初等科で学んでいるうちに、撮る映画が硬くなる時があるんですよ。脚本も照明も録音も撮影も、そのうち勢いだけじゃどうにもならなくなっていくから、みんな「ちゃんとする方法」を勉強するわけです。そうすると一回硬くなる。でもそうなる時期があった方が、いいんですよ絶対。そこで本当に自分の撮りたいものとか、テーマとか深く考えるようになるから。だから硬くなる時期を経ないと、次に行けない。みんなはまさにその、硬くなってる時期だよね。
西牟田 ガッチガチです(笑)。
星野 修了作品でいうと、西牟田さんと高橋さんの作品が、そういう感じに近いかも。でもそれを超えると、バッとはじけて、中編や長編が作れるようになっていくからね。
星野 小穴くんの作品は、問題作だったよね(笑)。
小穴 あれはちょっと僕ですら、あの作品を観て人はどう思うんだろうかっていうのが気になっていて(笑)。(編注:小穴康介『どす恋愛の土俵際』は大学の相撲部で繰り広げられる恋のさやあての物語)
小穴康介『どす恋愛の土俵際』
星野 シナリオ、良かったよね。キャッチーだったし、これは行けるだろ!って思ったんだけど。
小穴 はい。3月の時点で「絶対選ばれる!」って思ってました(笑)。撮り始めた途端、「……完成できるのかな?」っていう感じでしたけど。
一同 (笑)
小穴 僕は、大学院と両立することは、全然余裕だったんですよね。一番忙しかった「ミニコラボ」の時、講師の井川耕一郎さんと、ほぼ毎日編集をして、その後飲んで。その一ヶ月間が、僕は一番幸せでした。
——どんな話をしたんですか。
小穴 どんな話をしたんだろう。お酒の話と、ちょっとだけ映画の話と……
星野 でも井川さんってこっちが質問したりすると、すごい分量の答えが返ってくるでしょ。
小穴 そうですね。すごく有意義な時間だったです。
高橋 私がこの学校に入ったのは大学3年の時なんですね。そんなに忙しくもないので、みんなの課題をかなりの数手伝ったと思います。
星野 そうだね。出てるし、手伝ってるし。
高橋 あまりにもそっちに傾倒しすぎて、大学の単位を落としまくったんですけど。
星野 ダメだよ!
高橋 でも、落とさないことも、絶対可能なんです。絶対。
星野 そりゃそうだよ。
高橋 大学生には時間があるから、積極的に向きあおうと思えば、めちゃくちゃいろんな種類の人からいろんなことを学べるんですよ。技術がある人のところに行けば技術が学べるし、西牟田さんのところに行けば「場の空気はこうやって盛り上げるのか……」みたいなことを知れるし。先生方が「こういう面白い映画がある」って講評のときに挙げてくれる作品とかをちゃんと観る時間も作れる。ここに来るまで私は、既存の映画をそんなに観てなかったんですね。でもここへ来て、やっぱり観なきゃダメなんだ!っていうことを実感したので、観まくってます。
松本 それは、何に触れてそう思ったの?
高橋 映画が好きなのになんでこんなに観てこなかったんだろう、って反省したのと、例えば高橋洋さんとかに「君の撮るものはこういう映画に近いんじゃない?」って言われて、それを観ると「こんな人がいたんだ……!」っていう感動があって。
星野 それを一番感じたのは何だった?
高橋 『ツィゴイネルワイゼン』。
一同 あーーー!
星野 うちらの代の時(星野注:星野は12期初等科、松本は15期初等科だった)は「入学前にこれ観とけ」っていう講師陣からのリストが200本ぐらいあって、「観られるわけねーよ!」って思ったけど(笑)。
——「撮りたい」と思ってる人が、他の班の作品に出ますよね。それは、どういう心理が生じるんですか。
西牟田 私たちの期は女性が少なかったので、出ざるを得ないことが多かったんです。やだな、って思わなくもなかったけど、やってみると案外楽しかったり、「うまいね」とか言われたりすると、その気になっちゃうっていうのがあって(笑)。だから、出るのは楽しかったです。逆に勉強になる。俳優のことをすごく考えるから。
高橋 私はほんとに、自分の姿を見るのが嫌で、写真とかも嫌いなんですけど、自分でやってみてわかったのは、身体の動きとせりふって連動しているんだなあっていうこと。あと、自分だけが一方的に芝居するんじゃなくて、ちゃんと対峙しなきゃいけないんだっていうことも。
星野 それがわかると、役者さんとどういうコミュニケーションを取ったらいいのかがわかるからね。映画美学校の講師たちも、芝居すると異常にうまいじゃないですか。とても大事なことですよ。
——みんながみんなの作品に出まくっているから、みんな芝居が上達したと聞きました。
齋藤 藤本(英志朗)くんは完全にそれですね。
西牟田 覚醒したよね(笑)。
星野 齋藤くんは、もともと俳優をやってたんだよね。
齋藤 ある劇団で芝居してたことがあるんですけど、そこでは俳優が意見を言うなんて考えられなかったんですよ。「言われたことをやれ」と。だけど今回、どの班に行っても、ばんばん意見を出し合ってるんですよね。マジか!と思って。自分が今まで知ってた世界と全然違う、という実感がすごくありました。みんな同期だし、自分もちょっとだけハメをはずしてもいいのかな、って思いました。
——講師に言われたことで、記憶に残っている言葉はありますか。
西牟田 一番最初に高橋洋さんが「君たちは学費を払って締め切りを買ったんだ」っておっしゃって。締め切りがないと、ぐじぐじ考えて先に進めないから、締め切りというシステムをちゃんと活用しろと。超かっけー!と思って(笑)。
星野 19期はあらゆる提出物において、動き出しが遅い傾向があったんだよね。みんな、どこか構えてるようなところを感じた。「ちゃんと撮らねば」っていう意識が強かったかなと。それがいいとか悪いとかの話じゃないんですけど。そういう意識が高かったから、今回「セレクション」に選ばれなくて、相当悔しがってる人もいると思うんですよ。
松本 そうですね。パッケージに収めるのがうまい期でしたよね、良くも悪くも。
星野 で、提出し続けてた人は、やっぱり面白くなっていったんですよね。
小穴 僕は、井川さんがとにかく音にこだわっておられたのが印象的でしたね。それまで僕は音というものを、そんなに意識してこなかったんですけど、年末の寒いさなかに「じゃあ、波の音を録ってきてください」って言われたのは忘れないです(笑)。あと、砂利道の足音のために、大学じゅうにある石とか草とかをいっぱい持ち寄ったんだけど、最終的には井川さんがホームセンターで買ってきたパネルが一番いい音がしたのが悔しかった(笑)。
齋藤 僕はちょっと、もったいないことをしてるかもなあ。「印象に残る講師の言葉」って、うまく思い浮かばないんですよ。今回の僕の映画も「いいぞいいぞ!」「やれやれ!」ってケツ叩いてくれてた感じだったので、ズバッとダメ出しが刺さるっていうことはなかったような……
——アウトプットすることに夢中だと、受け取った言葉があまり残らないことってありますよね。
齋藤 そうかもしれないですね。
西牟田 あと、今の自分にはよくわからないこともたくさん言われたので。後から、気づくのかもしれないね。
星野 西牟田さんは、最終選考の時に最後まで名前が残ってたけど、どんな気持ちだったの?
西牟田 これをスクリーンで見せるのはちょっと……って思っていたし、選ばれないだろうな、とも思っていました。決選投票で残った他の人たちは、私もスタッフとして参加して、選ばれてほしいと思っていた作品たちだったので、「やめてください!」っていう気持ちでしたけど、でも……悔しいことは悔しかったと思います。次の日、泣きましたから。
一同 そうなの!?
西牟田 だって、作る当初はもちろん、選ばれたくて作り始めるじゃないですか。そのつもりで頑張ってきたけど、撮影とか編集をしながら徐々に現実を知っていくでしょう。
星野 「やりたかったところに到達できなかった」という悔しさ?
西牟田 そうですね。それがあると思います。
——みんなは「選ばれたい」と思っていましたか?
高橋 私にはそういう気持ちはなかったんです。選ばれなくていいから、今の自分にできるものを納得いくまでやろう、って思ってました。だからその点に関しては悔しくないんですけど、「納得いくまでできたのか」って考えるとそうじゃないので、そっちがすごく悔しいです。
小穴 僕は、企画段階で「これ、来たな!」って思ったんですよ。開始3分ぐらいまでは結構飛ばしてたんです。
星野 女の子が自販機に「てっぽう」をしてるあたりね(笑)。
小穴 でも撮影に入ってからいろいろあって、脚本を書き換えたりしてるので。
西牟田 私はスタッフで入ってたんですけど、監督が出ることになったのは予定外だったんですよね。そこから監督不在になって、ごちゃっとしていった。
小穴 まわしを着けたまま「用意、はい!」って言われてもね(笑)。
松本 あと原因としては、ロケーションで少しトラブったのと、……
西牟田 相撲についての取材が足りなかったかなあ、と。ちゃんと調べて、撮り方もちゃんと考えて行けばよかったなって思ったりとか。
齋藤 僕は、これまでの提出物を出していなかったので、修了作品で差を縮めてやろう!というのが最初のモチベーションだったんですけど。でも実際やってみると、総じて、客観性がなかったなっていうのを感じていますね。最初に僕が用意したのは、脚本なんて呼べる代物じゃなくて、「このせりふを、この言い方で、こんな顔して言えばたぶん面白い」っていうのをつらつらと書いただけだったので、これを他の人が読んでもまったく意味がわからなかったと思うんですよ。ということを、教えられたのが一番大きかったと思います。
齋藤成郎『ビックリカニンガム』
星野 「選ばれたい欲」についてはどうだったの。
齋藤 いや、ありましたよ(即答)。
西牟田 かっけーよー(笑)。
齋藤 「出足遅れてるけど、入るだろこれは」って思ってました。
——皆さんの作品が27日(土)から28日(日)にかけて、すべて上映されるわけですが、これを観に来た人は映画美学校の何を知れると思いますか。
西牟田 少なくとも、いろんな志向の人がいるんだってことがわかると思うんですよね。それぞれが好きなことをやっていて、昭和っぽい人がいれば、黒沢清っぽい人もいて。それからレベルもみんな違うじゃないですか。圧倒的にうまい人もいれば、そうでない人もいて、でも面白い!っていう。
星野 今年、ホラーテイストの作品が多いんですよ。Jホラー系があり、スプラッター系があり。高橋さんのも、「幽霊の身体がどうにかなる」っていう意味ではホラーだと思うのね。そういう人たち同士で、話をしたりはするんですか。
高橋 ホラーが好きな人とは、どうもテンションが合うんですよ。だから神谷(浩実)さんと近藤(亮太)くんと永澤(由斗)くんとは、話をしていて楽しいです。日常に寄り添った映画が撮れない。むしろ日常なんてどうでもいい。そんなことより、フィクションでどこまで面白いものを作れるかってことを突き詰めたい!っていう思いの強さが共通しているんだと思います。でも私は彼らよりも圧倒的に、ホラー映画を観ていないんです。だから3人が「これが面白い」って言ってるものを観たりして。そうすると3人とも全然違うテイストのものを好んでいたりするので、それがまた面白いんですよね。
松本 高橋さんはどういう映画が好きなの?
高橋 私はずっと『ミツバチのささやき』が大好きなんですけど。
松本 ああ。高橋さんはたぶんホラーが好きっていうより、単に暗いんだよね。
一同 (爆笑)
松本 高橋さんの映画を観て、たぶんそういうことなんだろうなと思ったんですよ。暗い映画が好きなんだろうね。薄暗い、ほの暗い、そういう映画が。高橋さんが暗いってことではなくて。
高橋 いや、合ってます。暗いです(笑)。『ミツバチのささやき』に、私はすごく恐怖を感じるんです。すごく怖い映画だと思うんですけど、みんなに言うと「そんなことはない」って言われる。
星野 僕は高橋さんの映画に、身体性を強く感じるんですよ。前の対談でも言ったけど、「時を追うごとに成長して服を着替える幽霊」ってすごく身体を感じるじゃない。
——っていうような会話は、映画美学校ではよく見られる風景ですか。誰かの映画について、みんなで考えるというような。
一同 ああーー。
西牟田 語りたがりは、いますね。
高橋 います、います。
——じゃあ19期の皆さんは、ここから先、どんなつながりを紡いでいくのでしょう。
西牟田 すでにもう何人かは、次の脚本を書いていたりするんですよ。「また助監督頼むよ!」とか「脚本、共同で頼むよ!」とか、いろんな声がかかったりするので、今後も学校とは関係なしに作っていくんだろうなという気持ちはあります。
高橋 それは多分に、西牟田さんの人気度があると思う。
小穴 うん。西牟田さん、人気があるんだよ。
星野 小穴くんはどうなの。
小穴 僕は、相撲をとりなおしたいっていう気持ちしかないです。
松本 それだと「取り組みをやりなおしたい」っていう意味になっちゃうよ。
一同 (笑)
小穴 僕は修了制作ですごく、「みんなで撮る」っていう連帯感ができたなと思うんですね。自分が映画を作るとしたら、このメンバー以外ないんじゃないかな、って思うくらい、強いつながりを感じるんです。
齋藤 そうね。「他にいない」っていう感じはあるね。
高橋 私にとっては本当に、優しい人しかいない期でした。今までどれだけ寂しかったんだろうって自分で思ったんですけど(笑)、「一緒に作る人」っていう存在が周りにあまりにもいなかったなあって。「作りたい」って思ってる人がいっぱいいる場所。だから否応無しに、今後も一緒に作ることになるんだろうなと思います。その日のために、今回いっぱい手伝ったって言ってもいいくらい。
松本 僕が今回強く思ったのは、前みたいに選抜された数人の映画だけが残るんじゃなくて、30人もの作品を観られるというのは実に楽しいもんだなということです。右も左もわからなかった人たちが、技術を学んで成長した上で「作品を撮ろう」という意志を持って、こうして監督をやっている。その成果物をこんなにたくさん観られる機会って、これ以降、たぶん無いじゃないですか。みんなの1年間の紆余曲折を知らない僕のような人間にも、そういう喜びがとてもあったんですね。だから映画美学校に関係のない方にも、この喜びを体験していただきたいと思うんですよ。
星野 本当にそう思います。8月27日(土)と28日(日)、両日とも17時半から映画美学校の地下試写室でお待ちしています!
——では最後に、まだ見ぬ20期生に何らかの言葉を。
西牟田 たぶん、さんっっざん言われてることだと思うんですけど、一緒に撮る仲間が見つかるっていうのは本当に価値があることです。変な先生も多いですし(笑)、スケジュールも厳しいし、思うところはいろいろあるけど、結果、みんな優しいしあったかい人たちなんですよね。入ったら絶対幸せになれると思います。
齋藤 俺ね、ここに入って、めっちゃ太ったんですよ。メシがうまくてうまくて。
小穴 ストレス食いとかじゃないんだ(笑)。
西牟田 確かに、飲み会が超楽しいよね。
高橋 ほんとにそうです。私の人生で、こんなに飲んだ1年間はなかったです。
松本 講師陣の本当の言葉が聞けるのって、講義よりも飲み会だからね。
星野 ズバッ!と言ってくるからね。だからお酒が飲めない人たちも、飲み会にはたくさん来る。
高橋 大学に入ったばかりの人によくある、鬱病になっちゃった人は来るといいと思います。
西牟田 ……ちょっとよくわからない(笑)。
高橋 いや、きっといっぱいいるんですよ。受験頑張って大学入ったけど全然馴染めないし楽しくないっていう人が。そういう人がここに来ると、自分とはまったく違う立場の人にたくさん出会えるので、絶対にいいです。
星野 高橋さんは単位を落としちゃったけどね(笑)。
高橋 いや、単位よりも大切なものがもらえるんで、絶対に来るべきです。
小穴 というか、「映画B学校」を見てるっていう時点で、すでにかなり映画美学校に興味あると思うんですよ。TwitterだかGoogleだかわからないけど、ここまでたどり着けたんだったら、それはもう、入った方がいいよ!って思う(笑)。
西牟田 ほんとだ、その通りだ(笑)!
高橋 すでにかなり好きですよ。「お気に入り」とかにしてますよ絶対。
——じゃあ、入学時に「映画B学校を見て来ました」って言ってくれたら特製缶バッジあげます!(2016/08/15)
西牟田 私は、大学でドキュメンタリーを撮ってたんです。それで友だちのバンドのPVを撮ったり、結婚式のビデオを撮ったりしていたんですけど、ちゃんと技術を学んだことがなかった。それでネットでいろいろ検索してたら、何件目かに映画美学校が出てきて。安いし、社会人でも通えるということだったので、ここしかないなと思って入りました。
齋藤 僕は別の学校の説明会に行ったんです。そしたら何というか、すっからかんな感じがしたんですよ。「え……何してる人……?」みたいな監督さんがいっぱいいて。それでいろいろ調べたら、この学校のことを知って。シネマヴェーラ(KINOHAUS4階にあるミニシアター)にはたまに来るし、ビルは洒落てるし(笑)、いいなあと思って。
——すっからかん感はなかったですか。
齋藤 なかったですね。みっっちみちに詰まってました(笑)。
星野 齋藤くんは、カリキュラムの途中から入ってきたんだよね。
齋藤 最初の「課題1」をみんな撮り終えて、講評を受ける1週間前ぐらいでした。なんか、みんな怖かった。
西牟田 怖かった?
高橋 集団がすでに出来上がってる感じだったもんね。
齋藤 そう。そこに飛び込むのはほんと、「えいや!」っていう感じだった。
高橋 私は大学生なんですけど、大学にあまり馴染めなくて(笑)。それで、新文芸坐で夏期講座のチラシを見て、「夏期講座だけ」って決めて入ったんです。そしたら自分は思っていたより、みんなで作ることが好きなんだなってことがわかって、その勢いでフィクション・コースに入りました。
星野 夏期講座では、僕がアシスタントをやった班だったんですよ。
高橋 めっちゃ優しかったです、星野さん。
小穴 過去形(笑)。
星野 初めて出会った人たちが班を組んで、しかもフィルムで撮影するから、大変なんですよ。で、高橋さんは自分が撮影をしたところで、あまりにもうまく行かなすぎて、最後にちょっと舌打ちしたんだよね(笑)。それを聞いて「この子は、何か持ってるぞ!」と思った(笑)。
高橋 幻聴です、幻聴。
小穴 僕は、シネマヴェーラがすごく好きで通ってたので、映画美学校についてはもともと知ってたんです。このビルの地下に何かがあるぞ、っていうことだけは(笑)。で、ある映画を観に行った時に、ちょうどガイダンス(説明会)をやっていて。今までたくさん映画を観て来たけど、「どうやって作られているのか」については、確かに考えたことがなかったなと思って。そしたら大工原さんだったかな、「とりあえず、入っちゃいなよ!」みたいな感じのことをおっしゃったんですよ。
一同 (笑)
小穴 で、入ってみたら、結構楽しかったんです。何かを準備するだけでも、みんなでワイワイ言いながらやるのが本当に面白かった。
西牟田 私は、ここに来るまではカメラも監督も全部一人でやってたんですけど、カメラの人がいて照明の人がいて録音の人がいて、助監督がいて制作がいて、っていう仕組みをここで知りました。みんながそれぞれの仕事に分かれて一つの作品を作る、っていうのを学んだ気がします。
星野 初等科のカリキュラムは、それこそ大工原さんじゃないけど「撮ってみなよ!」っていうことなんですよね。特定の人じゃなくて、受講生みんなが監督として撮ることが前提だから、みんな何らかの形で互いの作品作りに参加するわけです。提出課題が同じ時期にいくつも重なって大変なんだけど(笑)、その中で「やっぱり監督をやり続けて行きたい!」だけじゃなくて、「照明部って面白いな」とか「録音部やってみたい」っていう選択肢が、自分の中で増えてくれるといいなと思うんですよね。
——そもそも4人は、映画監督になりたくてここに来ましたか?
高橋 私、小学校の時に一度、映画を撮ろうとしたことがあるんですけど、本気すぎて友だちに嫌われかけたんですよ(笑)。すごい号泣しながら「ちゃんとやろうよ!」って合唱コンクールの時の女子みたいな感じでみんなに訴えて。ここにいると、その時のことをよく思い出しました。自分は「作りたい人」なんだ、っていうことをちゃんと昇華させなくちゃという思いがあったので、「映画監督になりたい!」っていう野望があったわけじゃないんですけど。
星野 どんな脚本を書いてたの?
高橋 クラスにすごく嫌いな男の子がいたんですけど、彼が世界を破滅させる菌を持ってるんです。
小穴 「菌」っていう発想が小学生だね(笑)。
高橋 瓶の中に入っていて、カタカナで「ポイズン」って書いてあるんです。
一同 (笑)
星野 当時から一貫して破滅志向なんだね。
一同 (爆笑)
高橋 でもたぶん私は、ほんとは好きだったんです。その子のことが。
一同 あーーーー!
男子 全然わかんない! 女子、全然わかんない!!
星野 でも、その匂い、若干あるよ。高橋さんの修了作品に。
高橋理美『少年たち』
松本 うん。これ、意外と恋愛映画なんですよね。今、腑に落ちた。そっか、そっか。
——他の皆さんはどうですか。
齋藤 僕はほんとに映画監督になろうと思って来ましたよ。
星野 課題一つも出してないけどね(笑)。
齋藤 そうなんです(笑)。「課題2」と「課題3」は撮ったんですけど、(星野注:初等科では、修了制作の監督エントリーより前に「短篇をつくる」という作品を撮る課題が3つ出される。それぞれ5から10分程度の短篇映画を決められた期限の中で撮って提出する、というもの。それぞれの「短篇をつくる」は、受講生全員、初等科担当講師全員の前で、試写室で上映をし、ディスカッション形式で講評が行われる)出すまでもないなーと思って。あと、出すのがちょっと怖かった。だから逃げ続けてきたんですけど。
高橋 私は、恥ずかしいなあっていつも思ってました。こんな状態で出すのは恥ずかしいって思いながら、でも出さないと意味ないなと思って。
齋藤 提出も回を重ねるごとに、そういう気持ちが薄れてきたりはしなかった?
小穴 なかった! いつも安心できなかった。
松本 「俺はあいつより面白いものを撮る!」みたいなテンションは?
星野 そうそう。19期って、ちょっと牽制しあう感じがあったよね。
西牟田 ああ。いろんなところで、いろんな人が言ってましたね。「あいつの作品って(講師陣に)褒められてるけど、何がおもしれーの?」みたいな。
一同 (爆笑)
小穴 それを聞くたびに怖くなるんですよ。自分も言われてるんじゃないかなと思って。
——カリキュラムは、ハードでしたか?
星野 それについてはこの4人はバラエティに富んでますよ。西牟田さん、齋藤くんは社会人。小穴くんは大学院生。高橋さんは大学生なので。
西牟田 平日の夜2日間と、土日が完全に埋まるので。会社行って学校行って……っていう繰り返しだったので、会社の評価がまず下がりましたよね。
一同 (笑)
西牟田 私、それまでは意欲的に働いてた人なんですよ。持ち前の真面目さで、すごく頑張って働いてたんですけど、ここに入って、人生の労力の注ぎどころが違うってことに気づき始めたんです。しかもこの学校では、授業のある日だけ来てればいいんじゃなくて、みんなの都合を合わせていくと、学校のない平日の夜とかに撮影せざるを得なかったりするんですよね。でも自分はこっちをやっていたいんだなって今回改めて思ったので、最終的には、会社を辞めました。映像の仕事に転職したいとずっと思っていたし、そのための経歴が欲しくてここに来たわけなので、先日、退職いたしました!
一同 お疲れ様でしたー!(拍手)
——その場合、ここで得た西牟田さんの「売り」って何でしょう。
西牟田 何でしょうねえ……学校に入るまでは「撮れるものを適当に撮る!」っていう感じだったんですね。それに比べれば、音に意識したり、カット割りを具体的に描いたり、脚本もちゃんと読むことができるようになったとは思います。
西牟田和子『公園の会』
星野 もちろん全員ってわけじゃないけど、初等科で学んでいるうちに、撮る映画が硬くなる時があるんですよ。脚本も照明も録音も撮影も、そのうち勢いだけじゃどうにもならなくなっていくから、みんな「ちゃんとする方法」を勉強するわけです。そうすると一回硬くなる。でもそうなる時期があった方が、いいんですよ絶対。そこで本当に自分の撮りたいものとか、テーマとか深く考えるようになるから。だから硬くなる時期を経ないと、次に行けない。みんなはまさにその、硬くなってる時期だよね。
西牟田 ガッチガチです(笑)。
星野 修了作品でいうと、西牟田さんと高橋さんの作品が、そういう感じに近いかも。でもそれを超えると、バッとはじけて、中編や長編が作れるようになっていくからね。
星野 小穴くんの作品は、問題作だったよね(笑)。
小穴 あれはちょっと僕ですら、あの作品を観て人はどう思うんだろうかっていうのが気になっていて(笑)。(編注:小穴康介『どす恋愛の土俵際』は大学の相撲部で繰り広げられる恋のさやあての物語)
小穴康介『どす恋愛の土俵際』
星野 シナリオ、良かったよね。キャッチーだったし、これは行けるだろ!って思ったんだけど。
小穴 はい。3月の時点で「絶対選ばれる!」って思ってました(笑)。撮り始めた途端、「……完成できるのかな?」っていう感じでしたけど。
一同 (笑)
小穴 僕は、大学院と両立することは、全然余裕だったんですよね。一番忙しかった「ミニコラボ」の時、講師の井川耕一郎さんと、ほぼ毎日編集をして、その後飲んで。その一ヶ月間が、僕は一番幸せでした。
——どんな話をしたんですか。
小穴 どんな話をしたんだろう。お酒の話と、ちょっとだけ映画の話と……
星野 でも井川さんってこっちが質問したりすると、すごい分量の答えが返ってくるでしょ。
小穴 そうですね。すごく有意義な時間だったです。
高橋 私がこの学校に入ったのは大学3年の時なんですね。そんなに忙しくもないので、みんなの課題をかなりの数手伝ったと思います。
星野 そうだね。出てるし、手伝ってるし。
高橋 あまりにもそっちに傾倒しすぎて、大学の単位を落としまくったんですけど。
星野 ダメだよ!
高橋 でも、落とさないことも、絶対可能なんです。絶対。
星野 そりゃそうだよ。
高橋 大学生には時間があるから、積極的に向きあおうと思えば、めちゃくちゃいろんな種類の人からいろんなことを学べるんですよ。技術がある人のところに行けば技術が学べるし、西牟田さんのところに行けば「場の空気はこうやって盛り上げるのか……」みたいなことを知れるし。先生方が「こういう面白い映画がある」って講評のときに挙げてくれる作品とかをちゃんと観る時間も作れる。ここに来るまで私は、既存の映画をそんなに観てなかったんですね。でもここへ来て、やっぱり観なきゃダメなんだ!っていうことを実感したので、観まくってます。
松本 それは、何に触れてそう思ったの?
高橋 映画が好きなのになんでこんなに観てこなかったんだろう、って反省したのと、例えば高橋洋さんとかに「君の撮るものはこういう映画に近いんじゃない?」って言われて、それを観ると「こんな人がいたんだ……!」っていう感動があって。
星野 それを一番感じたのは何だった?
高橋 『ツィゴイネルワイゼン』。
一同 あーーー!
星野 うちらの代の時(星野注:星野は12期初等科、松本は15期初等科だった)は「入学前にこれ観とけ」っていう講師陣からのリストが200本ぐらいあって、「観られるわけねーよ!」って思ったけど(笑)。
——「撮りたい」と思ってる人が、他の班の作品に出ますよね。それは、どういう心理が生じるんですか。
西牟田 私たちの期は女性が少なかったので、出ざるを得ないことが多かったんです。やだな、って思わなくもなかったけど、やってみると案外楽しかったり、「うまいね」とか言われたりすると、その気になっちゃうっていうのがあって(笑)。だから、出るのは楽しかったです。逆に勉強になる。俳優のことをすごく考えるから。
高橋 私はほんとに、自分の姿を見るのが嫌で、写真とかも嫌いなんですけど、自分でやってみてわかったのは、身体の動きとせりふって連動しているんだなあっていうこと。あと、自分だけが一方的に芝居するんじゃなくて、ちゃんと対峙しなきゃいけないんだっていうことも。
星野 それがわかると、役者さんとどういうコミュニケーションを取ったらいいのかがわかるからね。映画美学校の講師たちも、芝居すると異常にうまいじゃないですか。とても大事なことですよ。
——みんながみんなの作品に出まくっているから、みんな芝居が上達したと聞きました。
齋藤 藤本(英志朗)くんは完全にそれですね。
西牟田 覚醒したよね(笑)。
星野 齋藤くんは、もともと俳優をやってたんだよね。
齋藤 ある劇団で芝居してたことがあるんですけど、そこでは俳優が意見を言うなんて考えられなかったんですよ。「言われたことをやれ」と。だけど今回、どの班に行っても、ばんばん意見を出し合ってるんですよね。マジか!と思って。自分が今まで知ってた世界と全然違う、という実感がすごくありました。みんな同期だし、自分もちょっとだけハメをはずしてもいいのかな、って思いました。
——講師に言われたことで、記憶に残っている言葉はありますか。
西牟田 一番最初に高橋洋さんが「君たちは学費を払って締め切りを買ったんだ」っておっしゃって。締め切りがないと、ぐじぐじ考えて先に進めないから、締め切りというシステムをちゃんと活用しろと。超かっけー!と思って(笑)。
星野 19期はあらゆる提出物において、動き出しが遅い傾向があったんだよね。みんな、どこか構えてるようなところを感じた。「ちゃんと撮らねば」っていう意識が強かったかなと。それがいいとか悪いとかの話じゃないんですけど。そういう意識が高かったから、今回「セレクション」に選ばれなくて、相当悔しがってる人もいると思うんですよ。
松本 そうですね。パッケージに収めるのがうまい期でしたよね、良くも悪くも。
星野 で、提出し続けてた人は、やっぱり面白くなっていったんですよね。
小穴 僕は、井川さんがとにかく音にこだわっておられたのが印象的でしたね。それまで僕は音というものを、そんなに意識してこなかったんですけど、年末の寒いさなかに「じゃあ、波の音を録ってきてください」って言われたのは忘れないです(笑)。あと、砂利道の足音のために、大学じゅうにある石とか草とかをいっぱい持ち寄ったんだけど、最終的には井川さんがホームセンターで買ってきたパネルが一番いい音がしたのが悔しかった(笑)。
齋藤 僕はちょっと、もったいないことをしてるかもなあ。「印象に残る講師の言葉」って、うまく思い浮かばないんですよ。今回の僕の映画も「いいぞいいぞ!」「やれやれ!」ってケツ叩いてくれてた感じだったので、ズバッとダメ出しが刺さるっていうことはなかったような……
——アウトプットすることに夢中だと、受け取った言葉があまり残らないことってありますよね。
齋藤 そうかもしれないですね。
西牟田 あと、今の自分にはよくわからないこともたくさん言われたので。後から、気づくのかもしれないね。
星野 西牟田さんは、最終選考の時に最後まで名前が残ってたけど、どんな気持ちだったの?
西牟田 これをスクリーンで見せるのはちょっと……って思っていたし、選ばれないだろうな、とも思っていました。決選投票で残った他の人たちは、私もスタッフとして参加して、選ばれてほしいと思っていた作品たちだったので、「やめてください!」っていう気持ちでしたけど、でも……悔しいことは悔しかったと思います。次の日、泣きましたから。
一同 そうなの!?
西牟田 だって、作る当初はもちろん、選ばれたくて作り始めるじゃないですか。そのつもりで頑張ってきたけど、撮影とか編集をしながら徐々に現実を知っていくでしょう。
星野 「やりたかったところに到達できなかった」という悔しさ?
西牟田 そうですね。それがあると思います。
——みんなは「選ばれたい」と思っていましたか?
高橋 私にはそういう気持ちはなかったんです。選ばれなくていいから、今の自分にできるものを納得いくまでやろう、って思ってました。だからその点に関しては悔しくないんですけど、「納得いくまでできたのか」って考えるとそうじゃないので、そっちがすごく悔しいです。
小穴 僕は、企画段階で「これ、来たな!」って思ったんですよ。開始3分ぐらいまでは結構飛ばしてたんです。
星野 女の子が自販機に「てっぽう」をしてるあたりね(笑)。
小穴 でも撮影に入ってからいろいろあって、脚本を書き換えたりしてるので。
西牟田 私はスタッフで入ってたんですけど、監督が出ることになったのは予定外だったんですよね。そこから監督不在になって、ごちゃっとしていった。
小穴 まわしを着けたまま「用意、はい!」って言われてもね(笑)。
松本 あと原因としては、ロケーションで少しトラブったのと、……
西牟田 相撲についての取材が足りなかったかなあ、と。ちゃんと調べて、撮り方もちゃんと考えて行けばよかったなって思ったりとか。
齋藤 僕は、これまでの提出物を出していなかったので、修了作品で差を縮めてやろう!というのが最初のモチベーションだったんですけど。でも実際やってみると、総じて、客観性がなかったなっていうのを感じていますね。最初に僕が用意したのは、脚本なんて呼べる代物じゃなくて、「このせりふを、この言い方で、こんな顔して言えばたぶん面白い」っていうのをつらつらと書いただけだったので、これを他の人が読んでもまったく意味がわからなかったと思うんですよ。ということを、教えられたのが一番大きかったと思います。
齋藤成郎『ビックリカニンガム』
星野 「選ばれたい欲」についてはどうだったの。
齋藤 いや、ありましたよ(即答)。
西牟田 かっけーよー(笑)。
齋藤 「出足遅れてるけど、入るだろこれは」って思ってました。
——皆さんの作品が27日(土)から28日(日)にかけて、すべて上映されるわけですが、これを観に来た人は映画美学校の何を知れると思いますか。
西牟田 少なくとも、いろんな志向の人がいるんだってことがわかると思うんですよね。それぞれが好きなことをやっていて、昭和っぽい人がいれば、黒沢清っぽい人もいて。それからレベルもみんな違うじゃないですか。圧倒的にうまい人もいれば、そうでない人もいて、でも面白い!っていう。
星野 今年、ホラーテイストの作品が多いんですよ。Jホラー系があり、スプラッター系があり。高橋さんのも、「幽霊の身体がどうにかなる」っていう意味ではホラーだと思うのね。そういう人たち同士で、話をしたりはするんですか。
高橋 ホラーが好きな人とは、どうもテンションが合うんですよ。だから神谷(浩実)さんと近藤(亮太)くんと永澤(由斗)くんとは、話をしていて楽しいです。日常に寄り添った映画が撮れない。むしろ日常なんてどうでもいい。そんなことより、フィクションでどこまで面白いものを作れるかってことを突き詰めたい!っていう思いの強さが共通しているんだと思います。でも私は彼らよりも圧倒的に、ホラー映画を観ていないんです。だから3人が「これが面白い」って言ってるものを観たりして。そうすると3人とも全然違うテイストのものを好んでいたりするので、それがまた面白いんですよね。
松本 高橋さんはどういう映画が好きなの?
高橋 私はずっと『ミツバチのささやき』が大好きなんですけど。
松本 ああ。高橋さんはたぶんホラーが好きっていうより、単に暗いんだよね。
一同 (爆笑)
松本 高橋さんの映画を観て、たぶんそういうことなんだろうなと思ったんですよ。暗い映画が好きなんだろうね。薄暗い、ほの暗い、そういう映画が。高橋さんが暗いってことではなくて。
高橋 いや、合ってます。暗いです(笑)。『ミツバチのささやき』に、私はすごく恐怖を感じるんです。すごく怖い映画だと思うんですけど、みんなに言うと「そんなことはない」って言われる。
星野 僕は高橋さんの映画に、身体性を強く感じるんですよ。前の対談でも言ったけど、「時を追うごとに成長して服を着替える幽霊」ってすごく身体を感じるじゃない。
——っていうような会話は、映画美学校ではよく見られる風景ですか。誰かの映画について、みんなで考えるというような。
一同 ああーー。
西牟田 語りたがりは、いますね。
高橋 います、います。
——じゃあ19期の皆さんは、ここから先、どんなつながりを紡いでいくのでしょう。
西牟田 すでにもう何人かは、次の脚本を書いていたりするんですよ。「また助監督頼むよ!」とか「脚本、共同で頼むよ!」とか、いろんな声がかかったりするので、今後も学校とは関係なしに作っていくんだろうなという気持ちはあります。
高橋 それは多分に、西牟田さんの人気度があると思う。
小穴 うん。西牟田さん、人気があるんだよ。
星野 小穴くんはどうなの。
小穴 僕は、相撲をとりなおしたいっていう気持ちしかないです。
松本 それだと「取り組みをやりなおしたい」っていう意味になっちゃうよ。
一同 (笑)
小穴 僕は修了制作ですごく、「みんなで撮る」っていう連帯感ができたなと思うんですね。自分が映画を作るとしたら、このメンバー以外ないんじゃないかな、って思うくらい、強いつながりを感じるんです。
齋藤 そうね。「他にいない」っていう感じはあるね。
高橋 私にとっては本当に、優しい人しかいない期でした。今までどれだけ寂しかったんだろうって自分で思ったんですけど(笑)、「一緒に作る人」っていう存在が周りにあまりにもいなかったなあって。「作りたい」って思ってる人がいっぱいいる場所。だから否応無しに、今後も一緒に作ることになるんだろうなと思います。その日のために、今回いっぱい手伝ったって言ってもいいくらい。
松本 僕が今回強く思ったのは、前みたいに選抜された数人の映画だけが残るんじゃなくて、30人もの作品を観られるというのは実に楽しいもんだなということです。右も左もわからなかった人たちが、技術を学んで成長した上で「作品を撮ろう」という意志を持って、こうして監督をやっている。その成果物をこんなにたくさん観られる機会って、これ以降、たぶん無いじゃないですか。みんなの1年間の紆余曲折を知らない僕のような人間にも、そういう喜びがとてもあったんですね。だから映画美学校に関係のない方にも、この喜びを体験していただきたいと思うんですよ。
星野 本当にそう思います。8月27日(土)と28日(日)、両日とも17時半から映画美学校の地下試写室でお待ちしています!
——では最後に、まだ見ぬ20期生に何らかの言葉を。
西牟田 たぶん、さんっっざん言われてることだと思うんですけど、一緒に撮る仲間が見つかるっていうのは本当に価値があることです。変な先生も多いですし(笑)、スケジュールも厳しいし、思うところはいろいろあるけど、結果、みんな優しいしあったかい人たちなんですよね。入ったら絶対幸せになれると思います。
齋藤 俺ね、ここに入って、めっちゃ太ったんですよ。メシがうまくてうまくて。
小穴 ストレス食いとかじゃないんだ(笑)。
西牟田 確かに、飲み会が超楽しいよね。
高橋 ほんとにそうです。私の人生で、こんなに飲んだ1年間はなかったです。
松本 講師陣の本当の言葉が聞けるのって、講義よりも飲み会だからね。
星野 ズバッ!と言ってくるからね。だからお酒が飲めない人たちも、飲み会にはたくさん来る。
高橋 大学に入ったばかりの人によくある、鬱病になっちゃった人は来るといいと思います。
西牟田 ……ちょっとよくわからない(笑)。
高橋 いや、きっといっぱいいるんですよ。受験頑張って大学入ったけど全然馴染めないし楽しくないっていう人が。そういう人がここに来ると、自分とはまったく違う立場の人にたくさん出会えるので、絶対にいいです。
星野 高橋さんは単位を落としちゃったけどね(笑)。
高橋 いや、単位よりも大切なものがもらえるんで、絶対に来るべきです。
小穴 というか、「映画B学校」を見てるっていう時点で、すでにかなり映画美学校に興味あると思うんですよ。TwitterだかGoogleだかわからないけど、ここまでたどり着けたんだったら、それはもう、入った方がいいよ!って思う(笑)。
西牟田 ほんとだ、その通りだ(笑)!
高橋 すでにかなり好きですよ。「お気に入り」とかにしてますよ絶対。
——じゃあ、入学時に「映画B学校を見て来ました」って言ってくれたら特製缶バッジあげます!(2016/08/15)
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